野外で用を足しながら命を失う人も……
「娘はまだ小さいので、夜道で転んでしまったり、心細くなったりしてよく泣いていました。でも、恐ろしいのは暗闇だけではありません。夜になると動き出す動物たちが、いつ襲ってくるかもわからないのです」
女性たちがトイレとして使う茂みや草むらには、多くの野生動物が潜んでいる。カウルは「近くの村で、夜間に外で用を足そうとして、ヘビやサソリに襲われた人がいると聞いた事がある」と話したが、そうした危険と隣り合わせの中を行き来しなくてはいけなかった恐怖心は、いかほどのものだったのだろうか。
インドにはコブラなど猛毒を持つヘビが生息しており、有力紙「タイムズ・オブ・インディア」によると、インドでは毎年約280万人がヘビに襲われ、約4万6000人が命を落としているという(2019年11月1五日付電子版)。このうち、野外で用を足している時に襲われて命を落とした人がどれくらいいるのかは記されていないが、相当数が含まれると考えられるだろう。とりわけ、夜間であればその危険性は増す。まさに、トイレに行くのも命がけなのだ。
「安全のため」にトイレがほしい
だが、襲ってくるのはヘビやサソリなどの動物だけではない。夜間にトイレへ向かう女性たちを狙ったレイプ犯罪も数多く発生しているのだ。
2014年5月27日、ニューデリーから南東に約300キロ離れたウッタルプラデシュ州バダウン地区のカトラ村で、夕食後に用を足そうと近くの畑に向かった14歳と12歳の少女2人が男5人に集団レイプされ、殺害される事件が起きた。2人はいとこ同士で、外に出たまま戻ってこないことから、両親や村人たちが夜通し捜し回ったところ、翌朝になってマンゴーの木に吊り下げられて息絶えている2人が見つかったのだった。いずれもレイプされたあとに殺害されており、事件はインドだけではなく海外にも報じられ、大きな衝撃を与えることになった。
また、イギリスのBBC放送も、2013年5月9日に「トイレがないことによって起きるインド・ビハール州でのレイプ」という興味深いレポートを記している。ビハール州はインド北東部に位置し、インド国内でも最も貧しい州の一つとされている。レポートでは、2012年にビハール州で870件のレイプ事件が発生しており、州警察幹部はインタビューで「女性が用を足すため、深夜や早朝に家を出たときに犯行が行われている傾向がある。家にトイレがあれば、このうち約400人の女性はレイプを免れた」と話している。