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我々はなぜ“あの涙”に心動かされたのか…カープに上本崇司がいる幸せを考える

文春野球コラム ペナントレース2020

2020/09/22
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「あの涙」に我々があそこまで心を動かされた理由

 ここまで書いてきて、果たして他球団ファンに伝えたい上本の魅力とは、ただ単にお笑い要員であるということだけなのだろうかと考えた。もしそうだとするならば、「あの涙」に我々があそこまで心を動かされた理由の説明がつかないのである。

「あの涙」とは。今年8月28日の阪神戦、3-3で迎えた9回裏の1死一、二塁のチャンスで打席に立った上本が、プロ初となるサヨナラヒットを放った時の涙である。上本は見たこともないくらい、顔をグシャグシャにして泣いた。それは直前の9回守備で悪送球をしてしまったことも影響していたかも知れない。しかし、恐らく上本が泣いた理由はそれだけではなかった。

プロ初のサヨナラ適時打で涙を流した上本崇司

 これまで打撃改善に取り組み、スイッチヒッターにも挑戦し、それでも結果が出ない厳しさ。外野を含めて様々なポジションに挑戦し、時にエラーをしてしまう悔しさ。カープファンは、上本がただ単にふざけているだけではなく、必死に努力をしている姿も知っている。それは佐々岡監督の「スタメンでなかなか結果が出ない中、いじられながらも必死でやっていたから、あの涙なんだと思う」(スポニチアネックス・2020年8月29日)というコメントからも分かる。

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 プロ野球は結果が全ての世界だ。華々しい結果を残している選手がふざけたパフォーマンスをしても、それは単なる笑いとして受け取られる。しかしなかなか結果が伴わないムードメーカーの、本人にかかるプレッシャーは想像以上に大きいのではないだろうか。だからその選手の努力が報われた場合、喜びは格別のものとなる。カープファンにとって上本崇司とはそのような存在だと思う。

 水掛け要員ではなく、通訳でもなく、自分の活躍で初めてお立ち台に上がった上本のヒーローインタビューは、聞いているファンの側も少し面映ゆく、しかし何よりも嬉しいものであった。贔屓のチームにそのような存在がいるということの幸せを、今一度かみしめていたい(そして願わくばプロ初本塁打も見たい)。

上本崇司のユニフォーム着こなしの特徴 ©オギリマサホ

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