球団内ドラフト最下位からの下剋上
夏の広島大会が終わった後、花田は甲子園までの短期間に投げ込みを敢行している。
「もう1回、低めにボールを集めてストライク先行で投げられるように」
ようやく感覚が戻ったのは大阪入りしてからだった。強打で神奈川を制した横浜高を、花田は7回途中まで無失点に抑えた。「緩急を使って勝負しよう」と縦に大きく割れるカーブを多投。カットボールだけではない、総合力の高さもアピールした。
ドラフトでは球団内の最下位指名になったが、花田には不満などさらさらない。
「指名していただいて、ありがたい思いでいっぱいです」
それが偽らざる本音だという。
その一方、「一番下の指名なので、これからが勝負だと思っています」とドラフト指名がゴールではないことも強く認識している。
偉大な先達もいる。3年前のドラフト会議では、聖心ウルスラ学園の変則右腕が巨人から6位指名を受けた。同年の巨人球団内では最下位指名。指名を受けた右腕はこんな言葉を漏らしていた。
「ドラフト1位で入って注目される選手と、ドラフト6位という下位指名で注目されずに入ってくる選手とでは気持ちも違います。やっぱり『やってやるぞ』という気持ちは、育成選手を含めて一番強いんじゃないかなと思います」
それからわずか3年の短い期間で、変則右腕は通算19勝を挙げている。今や巨人の先発ローテーション投手となった、戸郷翔征のことだ。
花田に戸郷の事例を伝えると、「それは知りませんでした」と驚いた表情を見せた。バランスのいい投球フォームの花田とオリジナリティーの強い変則右腕の戸郷とでは似ても似つかないが、負けず嫌いのメンタリティーは共通している。
「ずっと憧れていた菅野智之さんとまさか同じチームに入れるなんて……と驚きましたが、いずれは追いつかないといけないと思っています。しっかりと体を作って、全体的にレベルアップしていきたいです」
そう語る花田は、もはやプロ野球選手の顔になっていた。
10月16日現在、巨人は泥沼の10連敗を喫している。花田がチームに貢献できるだけの実力を養うのは、まだ先の話かもしれない。それでも、苦しい時期を耐え忍び、崖っぷちでチャンスをつかんだ男には底知れぬ生命力が宿っている。
最後に、巨人ファンへのメッセージを聞くと、花田は照れたようにこう答えた。
「(広島新庄OBの)田口麗斗さん(ヤクルト)のように面白いことができるタイプではないんですけど、チームのために懸命にやります。応援よろしくお願いします」
北広島町初のプロ野球選手・花田侑樹。西日本最寒と言われる寒冷地からプロに進む右腕は、最下位指名からの下剋上を狙っている。
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