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元西武・カブレラの息子が、独立リーグの茨城アストロプラネッツに残してくれたもの

文春野球コラム ペナントレース2021

2021/10/21
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元メジャーリーガーの矜持

 そんなお父さんと同様、ラモンもMLBの組織で教育を受けてきた選手です。アストロプラネッツの選手たちにもピッツバーグ・パイレーツやシンシナティ・レッズ時代の話をしてくれて、特に好影響を与えてくれたのがプロフェッショナルとしての在り方でした。

 例えば不調が続いているとき、日本人選手は監督やコーチ、球団フロントの前でもネガティブな発言をすることがあります。でも、ラモンは私の前で絶対に弱音をはかない。31歳で来日して文化や食も大きく変わり、独立リーグという恵まれない環境に置かれたなか、鋼のメンタルを持っていました。

 グラウンドに立つ者はプロ野球選手であると同時に、ビジネスパーソンでもあります。そのコンテンツは「自分」です。

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 GMの私は、そうしたコンテンツを評価する立場にあります。だからラモンは、私の前では絶対にネガティブな発言をしなかった。そうした姿勢こそ、本当の意味でのプロフェッショナルだと逆に教えられました。

 ラモンは捕手大国として知られるベネズエラからやって来たキャッチャーです。アストロプラネッツのピッチャー陣は、配球面で非常に助けられました。

 海外のさまざまな国でプレーしてきただけあり、特に優れていたのが観察力。バッターが打席に入ってくるところから目を凝らし、どんな軌道でスイングするのか、心の中ではどんなことを考えているのか、追い込まれたらどういう心境になるのだろうか。そんなところまでラモンはずっと見ています。

 メジャーリーグという野球界の頂点から、マイナーリーグや独立リーグという下のレベルまで、キャッチャーとして見てきていることもラモンの武器です。

「日本の独立リーグでは、これくらいの球を投げていれば打たれないかもしれない。でも次のステージを目指すなら、この場面でインサイドに投げられる技術を身につけないといけない」

 そんな言葉をかけて、アストロプラネッツのピッチャー陣をモチベートしてくれました。

 例えば、145キロしか出ないのにメジャーリーグで活躍している投手もいれば、150キロ出るのに独立リーグにとどまっているピッチャーもいます。後者が飛躍するために、どんなプランを持ってやるべきなのか。そうしたことまで厳しく、はっきり言えるのがラモンでした。

©茨城アストロプラネッツ

4選手が「目標の場所」へ

 球団のGMとして改めて感謝したいのが、8月にNPBの支配下登録期限が切れた後も、「俺はここで最後まで野球をやり切る」とプレーを続けてくれたことです。

 当たり前と思われる方もいるかもしれませんが、彼が見据えていたのはNPBでプレーすること。いわば、茨城に来たのはその足掛かりだったと思います。目標の場所にたどり着けないことが決まった後も、同じようにプレーし続けてくれたことには感謝しかありません。

 BCリーグでは47試合に出場し、打率.263、4本塁打、26打点。そうした成績以上に、野球に取り組む姿勢や考え方などチームに多くのものを残してくれました。

 我々のような独立リーグの球団にとって、ラモン・カブレラ、ダリエル・アルバレス、セサル・バルガスという3人の元メジャーリーガーによる影響は本当に大きく、その甲斐もあって先のNPBドラフト会議では茨城アストロプラネッツから2選手が名前を呼ばれました。オリックスから育成1位で指名された外野手の山中尭之と、DeNAから育成3位で指名された外野手の大橋武尊です。山中は長打力、大橋は俊足を武器にしているので、それぞれの球団のファンの方々は楽しみにしていてください。

 来年は、今年以上に多くの選手をNPBに輩出するつもりです。今年練習試合をしてもらった西武にも、茨城から送り込めればと思っています。

 新シーズンに向けて球団の魅力をさまざまに高められるようにすでに動いているので、これを読んでくださっている文春野球読者の方々は、ぜひ茨城アストロプラネッツのスタジアムにも遊びに来てください。

構成/中島大輔

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