2021年シーズン、私がGMを務める独立リーグの茨城アストロプラネッツは外国人選手2名をNPBに送り出しました。キューバ出身でソフトバンクに加入した外野手のダリエル・アルバレスと、メキシコ代表の投手として東京五輪に出場した直後にオリックスへ移籍したセサル・バルガスです。

 彼らは日本のプロ野球でプレーすることを目標にアストロプラネッツに来たので、実現されて本当に良かったです。

 同時に球団を運営する立場からすると、選手がNPBのチームに獲得されると、送り出した側には移籍金が入ってきます。その額は、ユニフォームに貼れるスポンサーロゴと同程度。独立リーグの球団は小さな規模で経営しているので、とても大きな収入になりました。

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 そんな2人と同じくらい、アストロプラネッツに大きな価値をもたらしてくれた外国人選手がもう1人います。ラモン・カブレラ。そう、2001年から西武やオリックス、ソフトバンクでプレーしたアレックス・カブレラの息子です。

ラモン・カブレラ ©茨城アストロプラネッツ

 今季開幕前にメディアでも話題にしてもらったので、ご存知の方もいるかもしれません。ダリエル、セサルと同じく、ラモンも元メジャーリーガーです。最高峰の舞台で4本のホームランを打ち、3A、2A、アメリカの独立リーグ、メキシコ、ベネズエラリーグと渡り歩きました。そして31歳になった今年、リスクをとって茨城に来たのです。

 MLBという野球界の頂点を知る者にとって、日本の独立リーグは想像以上に劣悪な環境でしょう。それでも、ラモンは再び日の当たる舞台に立とうとハングリーに挑戦しました。そうした姿勢は、本物のプロフェッショナルでした。

思い出の地で松井稼頭央さんと3人で

 西武ファンの方なら、メットライフドームでカブレラが180メートルのホームランを直撃させた場所の看板をよく目にしていると思います。カブレラ地蔵というものもありました。

 ファンの皆さんがTwitterなどでカブレラパパがいた時代の思い出を語っているのを見て、獲得して良かったなと私自身も思いました。独立リーグには話題性がとても重要です。実際、「カブレラの息子を一目見たい」とアストロプラネッツの球場に来てくれた西武ファンの方もいました。

「自分の父がプレーしていたスタジアムに来られて本当にうれしいよ。俺自身も子どもの頃によく通っていた場所だからね」

 5月11日、アストロプラネッツが西武二軍との練習試合でCAR3219フィールドを訪れたとき、ラモンはそう喜んでいました。彼にとって来日後の自主隔離期間が明けたばかりの時期で、急ピッチで調整して間に合わせました。

 試合前には西武の二軍監督の松井稼頭央さんが来てくれて、ベネズエラにいるカブレラにテレビ電話をつなぎ、お父さんと3人で話していました。私自身、アメリカの独立リーグやメキシコなどでプレーし、イランやパキスタン、香港の代表チームで監督を務めたことがあるのですが、野球を通じた世界交流は話に花が咲くものです。

 ラモンはよく、お父さんのストーリーを話してくれました。自分が野球選手としてプレーする上で、40代中盤まで現役を続けた父の姿を見てきたのは非常に大きかった、と。その裏には、妥協のないトレーニングがあったそうです。だからこそ、メットライフドーム史上最長のホームランを打てたのでしょう。

松井稼頭央二軍監督とのツーショット ©色川冬馬