昨年のセ・リーグMVPにはカープの丸佳浩が選ばれた。MVP投票では総数286票のうち1位票を196票(69%)集めている。鈴木誠也が夏に怪我で離脱しなければ、票は割れたかもしれない。それでも昨年の丸が攻守両面で貢献度が高かったことは間違いない。ちなみに一昨年のMVP投票では、総数271票のうち丸への投票は、1位票がゼロ票で、2位票が1票、3位票が2票だった。一昨年もベストナインを獲得したが、28歳の昨シーズンにさらにワンランク上の評価を得ることになったのだ。そして、今年のシーズン後に丸はFA権を取得する見込みだ。これはカープファンにとっては大きな憂いかもしれない。

連覇を果たしたチームの最初のピースが丸だった

 今のカープには主力に丸と同学年の選手が集まっているが、その中で最初に1軍に定着したのが丸だ。丸はプロ入り4年目の2011年に1軍に定着し規定打席に到達している。翌2012年こそ出場を減らし規定打席に到達しなかったが、2013年以降はほぼ全ゲームに出場している。

 2011年に丸以外でカープで規定打席に到達したのは、栗原健太と東出輝裕だった。この2人は翌2012年以降、怪我の影響で満足なシーズンを送ることができないまま、引退することになってしまう。丸は栗原と東出が引っ張るチームの若手として経験を積む、とはならなかった。若くして野手陣の中心になったのだ。

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 カープが初めてクライマックスシリーズに出場した2013年のチームは、リーグ連覇につながったチームの始まりと言えるだろう。この年に規定打席にのせた野手は23〜24歳だった丸と菊池の2人だけだ。この年からこの2人が、野手陣の先頭でカープを引っ張っていくことになった。バッテリーには前田健太と石原慶幸がいたが、打線はまだ若いキクマルコンビが引っ張る。優勝したのが2016年だから、2013年から4年目に花開いたことになる。丸の方が1軍定着は早かったから、連覇を果たした今のチームの最初のピースが丸だ。キクマルコンビが支えてきた土台に、エルドレッド、新井貴浩、鈴木誠也たちが加わったのが、チームを連覇に導いた今のカープ打線なのだ。

昨年のセ・リーグMVPに輝いた丸佳浩 ©文藝春秋

山本浩二と丸の共通点

 若いころからチームの主力になった丸だが、一昨年までは80点くらいの選手、という印象があった。昨年の3月に開催されたWBCの侍ジャパンにも丸は選ばれていない。ところが昨年、MVPを獲得するまでになった。この28歳のシーズンでさらなるブレイク、というのは、カープのレジェンド山本浩二に通じるところがある。山本浩二は、大学卒業後にドラフト1位でカープに入団し、1年目の1969年から1軍レギュラーとして活躍したが、1974年のシーズンまでは、そこそこいい選手という評価だった。それが28歳で迎えた1975年に大ブレイクを果たした。首位打者をとり、カープをチーム創設以来初めてのリーグ優勝に導き、MVPに輝いたのだ。この年カープはチームカラーに赤を採用し、やがて山本浩二は「ミスター赤ヘル」と呼ばれることになる。山本浩二と丸にはつぎのような共通点がある。

・俊足・好守のセンター
・レギュラー獲得後、数年は「そこそこいい」選手
・最初のリーグ表彰は守備の評価
 1972年 山本浩二(26歳)ダイヤモンドグラブ賞
 2013年 丸佳浩(24歳)ゴールデングラブ賞 (同年に盗塁王も獲得)
・28~29歳にブレイク。チームを優勝に導きMVPを獲得