危機に立たされたと、大谷の本能は解放される
日本ハム時代の大谷に、小学2年生から野球を始めてからの「野球が楽しい度合い」を折れ線グラフにして書いてもらったことがある。
まず最初にマックスの100%だったのは、小学校2年生のとき。「一番楽しいじゃないですか。勝敗はあまり関係なく、うまくなる時期なので」
中学から少しずつ、勝敗を気にするようになった。「中学で50かな。勝てなかったので楽しくなかったです。チームが弱かったので。高校2年のときはけがをしてつまんなかったから、ここは10。そこから3年春は甲子園(選抜大会)出たから、90かな。まあ、高校は勝ちたいっていうだけですね。勝てば100、負ければ0でした」
ここで打たなければ負ける。ここで抑えなければ負ける。その危機に立たされたとき、大谷の本能は解放される。
準々決勝以降、一発勝負のトーナメントで戦うWBCは、高校野球に近い感覚だ。大リーグでの大谷とはまったく違った感情がわき上がるのかもしれない。
だから、聞きたかった。話をミックスゾーンに戻す。囲み取材の後半、3列目から背伸びをしながら、ようやく質問できた。
「それは、テレビゲームをしているような楽しさじゃなくて…」
――負ければ終わりのヒリヒリした日々、場面で、どんな感情がありますか?
「楽しいですね。それは、テレビゲームをしているような楽しさじゃなくて、重圧も込みで。人生のなかで、そうそう、こういう経験ができる舞台はない。こういうところでプレーしているんだなという、そういう気持ちも込みの楽しさです」
穏やかな目の奥に、充実感が満ちる。続けて大谷は言った。
「あしたも試合ができるのも、もちろん楽しみにしています。緊張すると思います、あしたも。それもまた、楽しんで」
「勝ち」と「負け」の境界線上に身を置くスリルが、大谷を心地よくする。「二刀流」と個人のことにフォーカスされがちだが、大谷はこの野球という団体スポーツが何より好きで、楽しいのだと。
決勝戦。3月22日のローンデポ・パークは熱気にあふれていた。3万6038人の大観衆。野球の祖国・アメリカを相手に、生粋の勝負師を中心に据えた日本が、14年ぶりの頂点に立った。優勝トロフィーを掲げた大谷に、日米関係なく多くのファンから拍手が降り注いだ。
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