※こちらは「文春野球学校」の受講生が書いた原稿のなかから、文春野球出場権を獲得したコラムです。

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 小林誠司はミノが好きだという。焼肉を食べに行ってもほぼホルモンしか食べないらしい。確かに今年は35になる年。野球選手としてはベテランの域だ。カルビの脂は重く感じるのかもしれない。弁当の主役はミノにしよう。

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 しかし困った。ミノは料理したことがない。普通のスーパーに売っているのだろうか? 近隣のスーパー3軒を渡り歩いたが売っていない。最後の砦、クイーンズ伊勢丹に行ってみた。

 やはり見当たらない。肉コーナーで品出しをしている店員さんに聞いてみた。

「あの~ミノは置いていますか?」

 店員さんは申し訳なさそうに言った。

「最近、輸入の関係で入ってこなくなってしまって。夏には焼肉セットの一部にミノが入ったものをご用意する予定です」

 夏かぁ。待てない。ミノに似ているものはないか。

 そうだ、イカにしよう! あの歯ごたえのある食感、飾り切りにして炒めてしまえば見た目も近しいに違いない。イカは良質なたんぱく質、抗酸化力のビタミンE、疲労回復をサポートするタウリンなど、栄養素もバッチリだ。

ミノ好きの小林誠司 ©時事通信社

最初は菅野智之を応援していた

 なぜこんなに小林誠司が好きになったのだろう。最初は巨人のエース、菅野智之を応援していた。菅野の登板日に巨人戦を見ていたら、日に日に小林とのバッテリーが増えていった。

 どっしり大きくてゆる系の菅野と端正な顔立ちの細身な小林。同学年の友達のような2人が勝利の瞬間にマウンドでハグする姿が好きだった。

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 クイーンズ伊勢丹で購入したイカはふっくらと腹が丸くていい感じだ。早速ワタを出そうとイカの腹に親指を突っ込んだ。

 ん? 流動的な形のはずのワタがいつもと違う感触。ぐっと引き抜くと、結構なサイズの魚が出てきた。イカが飲み込んだ魚ごと買ってしまったのか。推しの弁当作りで自然界の食物連鎖を体感することになるとは。

 気を取り直し、松笠切りにしたイカともやしとニラをオイスターソースで炒めた。うん、いいにおい。

上のトレイに乗っているのがイカの腹から出てきた魚 ©たかぞう

7年経ったいまも色褪せない大好きなシーン

 スガコバは2017年のWBCでも躍動した。そして小林ファンには忘れられない名場面がある。

 1次ラウンドのオーストラリア戦、球数制限に達した菅野に代わり、5回裏1死1、2塁でマウンドに上がった岡田俊哉(中日)が緊張のためか全くストライクが入らなくなってしまった。

 小林がマウンドへ駆け寄り、岡田に声をかける。

「何の球種ならストライク入る?」

「真ん中に構えるから、思い切って投げろ」

 岡田は渾身の直球を投げ込んだ。結果は内野ゴロで併殺。絶妙の“間”が無失点へ導いたと当時話題になったが、 7年経ったいまも色褪せない大好きなシーンだ。

 あさのあつこさんの小説「バッテリー」を読んだときのような青春の甘酸っぱさを感じる。投手を孤独にしない。18.44m離れた場所から声で、ジェスチャーで、眼差しで、鼓舞して一緒に戦っている。そんなバッテリーの関係性に胸が熱くなった。一心同体。まるで魚とイカのように。

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 イカ炒めだけでは野球選手のお腹を満たすことはできない。次はサムギョプサルに取り掛かる。

 ビタミンBが豊富な豚肉は疲労回復にマストな食材。豚バラは脂が多いが、カリカリに焼くことで余分な脂が抜け、意外と胃もたれしない。ピリ辛のみそだれとほうれん草ナムルを添えればご飯もモリモリ進むはず。我ながらいい焼き加減だ。