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 もはや〈タフィー3〉の生き残りの護衛空母5隻に目に見えるほど追いついてもいなかった。「われわれは之字(のじ)運動をするそちらの艦を正尾追撃していて、そのため射距離を測定するのが困難になりました」と栗田はのちにいっている。

「また、主力部隊はそちらの駆逐艦の雷撃のせいで常時、遠く切り離されていました」

 日本軍の見張り員は追撃している敵艦を識別するのに苦労していて、それが速力30ノットのエセックス級空母だと思っていた。それなら1日中、追撃されても、日本軍の艦砲の先にずっといられた。小柳参謀長は「追撃は際限のないシーソーごっこで、決定打をあたえることはできないだろう。しかも、高速を出しているので、燃料をどんどん消費している」と判断した。こうしたあらゆる理由から、栗田提督は艦隊に追撃を中止して、自分について北上するよう信号を送った。

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 ファンショー・ベイがまだ追いつかれて撃破されていないことに驚いたジギー・スプレイグは、自分の部隊の一部は逃げられるかもしれないと希望をいだきはじめた。8時15分、敵から1時間逃げたあとで、彼は操舵員長のほうを向いて、こういった。

「よかった、われわれにもチャンスはあるかもしれないぞ」

 それからガンビア・ベイが追いつかれて砲撃で沈められると、状況はさらに暗くなった。日本軍の艦砲がやっと沈黙し、敵が北へ向きを変えると、アメリカ軍は自分たちの幸運を信じられなかった。ファンショー・ベイの信号員は嘆くふりをして叫んだ。

「なんてこったい、みんな、やつらが逃げていくぞ!」

〈全3回の2回目/3回目につづく〉