【前回までのあらすじ】札幌の大学に通うマチは、恋人の浩太の家にあった雑誌を読んで狩猟に惹かれる。銃砲店の店主・堀井から紹介された猟友会会長の新田は、狩猟を始めるための手続きを教えてくれた。マチは狩猟免許を取ると浩太に報告するが、彼はそれを歓迎せず、二人は別れることに。十月になり狩猟解禁日を迎え、マチは新田に同行し、初めて狩猟を見学する。

 

「おう」

「いますね」

 鹿の発見はあっけないものだった。窪地で新田が足を止め、熊野が頷く。マチが鹿を見つける前に、新田は銃を下ろすと弾を装填し、膝を地面につけた。銃口の先を視線で追ってようやく、笹の生い茂った斜面を背後に立つ鹿を見つけた。立派な両角が天を向いている。

 そこからの流れは早かった。新田は手慣れた様子で引き金を引く。

 耳を塞ぎ忘れたマチは、空気を震わせる発砲音に全身を殴られたように感じた。ほぼ同時に、急所を撃ち抜かれた鹿は斜面を転がり落ちる。新田は藪をこいで鹿に近づいた。マチもその後を追い、安全を考えてか熊野がその後ろに続いた。

 マチはつい一分前には生きていた鹿が、撃たれて命を失うところを見届けた。続いて、ナイフで止め刺し、つまり首の根元にナイフを刺し、放血するところまでをちゃんと見た。

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source : 週刊文春 2024年11月21日号