例えば子ども時代から慣れ親しんだ実家から引っ越すとき、人は過去を懐かしむ。お別れに写真でも撮ろうか……そんな気分にもなるはずだ。

 12月に入り、大阪府高槻市の新将棋会館で公式戦も行われるようになり、大阪市福島区の旧関西将棋会館(以下は旧会館と表記)は完全にその役目を終えた。

 旧会館の歴史は自分の青春であり、成長記録でもある。10代前半の奨励会6級から始まり、八段の今まで優に40年以上。奨励会時代のライバル、去ってしまった仲間、今もしのぎを削る同業の棋士たち……数えきれない思い出がある。「師匠」としては、藤井聡太七冠と指した3局が印象深い。

 初戦は信じられないほど多くの報道陣に囲まれた。朝、入り口に散乱する靴の数を見て、思わず襖を開けるのを躊躇したものだ。

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source : 週刊文春 2024年12月19日号