(いけがやゆうじ 脳研究者。1970年、静岡県生れ。東京大学薬学部教授。神経科学および薬理学を専門とし、海馬や脳の可塑性を研究。2024年、『夢を叶えるために脳はある』で小林秀雄賞を受賞。著書に、『海馬』(糸井重里氏との共著)『受験脳の作り方』『進化しすぎた脳』『生成AIと脳』ほか多数。)
私が生まれ育った家は、父がほぼすべて自分の手で建てたんです。基礎工事の穴を掘ってコンクリートを流すところから、全ての工程を。父の実家は鉄工所で、鉄骨を使った建築業をしていました。父自身は自動車修理の仕事をしていましたが、小さい頃から祖父の仕事を見ていたおかげか、家の作り方をなんとなくわかっていたんでしょうね。
脳研究者で、情報番組のコメンテーターとしてもお馴染みの池谷裕二さんは1970年、静岡県藤枝市に3人きょうだいの次男として生まれた。子どもの頃は父の手作りの家に暮らし、野山を駆け回って遊んでいたという。
鉄骨2階建てで、1階には家族が過ごす茶の間と、台所、風呂(トイレは外)、2階は部屋が2つあるだけ。手作りだけあって狭い家でしたが、広さ40平米の屋根上ベランダが大好きな場所でした。天体望遠鏡を出して初めて土星の環を見たときは本当にワクワクしたものです。
井戸も父が掘ったんですよ。のちに近くまで水道が延びたときも、「自分でやるからいらない」と断ったそうです。それで、うちは今でも井戸水をそのまま飲んでいます。お風呂も井戸水を使っていて、ベランダに置いた太陽熱温水器でお湯を温めています。ベランダの真下がお風呂場になっていて、温めたお湯を上から流し落とすわけです。
とはいえ素人が建てた家ですから、難点もありました。雨漏りはしょっちゅうだし、隙間風は入るし、お菓子を床にこぼそうものなら大量のアリが押し寄せてきました。ただ、そんなふうに何でも自分で作ってしまう父の姿は、見ていて面白かったですね。
趣味ややりたいことをサポートしてくれた父。家業を継ごうと進学した大学では――
父は子どもの趣味ややりたいこともいつもサポートしてくれました。釣りの仕掛けの作り方を教えてくれたり、ものづくりをしたいといえばサッと道具を出して準備してくれたり。私が拳銃に興味を持った時も、拳銃の仕組みが書かれた本を買って、モデルガンを売っている店に連れて行ってくれました。
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source : 週刊文春 2024年12月19日号