【前回までのあらすじ】札幌の大学に通うマチは、狩猟免許を取得。就活も終え、二年目の猟期が始まった。マチは、山で遭遇した痩せたクマを撃ったことを後悔する。その様子を見た堀井銃砲店のお婆さんの勧めでアヤばあを訪ね、二人で近くの山へ入ると、そこには三石勇吾が倒れていた。アヤばあの家へ連れて戻ると、勇吾はマチに侮辱的な言葉を掛け、険悪な雰囲気に。

 

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 アヤばあが山の中で倒れていた三石勇吾を車が止めてある場所まで送っていったため、マチは留守番を任される形になった。

 他人の家に一人残されるのは、どこか尻が据わらない。マチは幾度も座布団の上で姿勢を変えた。

 静かだった。ストーブの上にあるヤカンからしゅうしゅう控えめに湯気が出ているほかは、何も音がしない。家族の気配や車の音が常にある自宅とは大違いだった。ここなら山の中で鳴く鹿やキツネの声でさえ聞こえてくるのかもしれない。少し、羨ましかった。

 静かさに意識を集中していないと、先ほど勇吾から言われた言葉が脳裏に蘇ってしまう。

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source : 週刊文春 2025年2月20日号