「『人生がちょっと迷子』になった時、1人の謎の男と共にその『暖簾』はあらわれる。皆その『暖簾』をくぐると裸になる――」

『今夜は…純烈』の冒頭にはそんなテロップが表示される。だが、このドラマを見ているときこそ、わけがわからなくて「迷子」になりそうだ。ドラマはタイトルが示すとおり純烈が主演なのだが、各話には別に主人公がいる形式のようだ。

純烈(2019年、第70回NHK紅白歌合戦) ©文藝春秋

 第1話の主人公は2人。高円寺に住む女性・峯田成美(川津明日香)。ブランド品よりも自分の手作りのものを好み、シンプルな生活をする、いわゆる“丁寧な暮らし”をしている。もうひとりの主人公は、彼女とは対照的に、ステータスにこだわる港区在住の男性・清水龍俊(井上想良)。「流行を追えている自分には自信がある」そう。正反対なタイプだが、いけ好かないという点では共通している。2人はそれぞれ、気の合う友人、恋人候補と同じカフェにやってくる。

 そして、伝票を落としたことがきっかけで2人は出会うのだ。彼女がその伝票を拾おうとしたとき、突然、謎の男(今林久弥)があらわれる。男は「たった2秒」「目と目が合っただけですいこまれていく心」と意味不明なことを彼女にささやきつつ手招きする。あらわれたのは暖簾。彼女が戸惑いながらもそれをくぐると、そこはお風呂。天井にはミラーボール。そして、目の前に裸の男4人。そう、純烈だ。腰にタオルを巻いただけの純烈は、「頭の中、空っぽにしてみ」「自分が好きなものってもっと単純なんじゃないかな?」「感じることを大切にしよう」「自分のカテゴリーに縛られるなよ」と一言ずつ言って、所ジョージ作詞作曲の「たった2秒の恋」をフルで歌い出すのだ。彼女は唖然としたまま聴いている。テレビの前の僕らもそうだ。

「どういうこと?」

 歌い終わった純烈に彼女は、僕らの気持ちを代弁したセリフを言うが、もちろん彼らが答えることはない。さらに港区男子の前にも謎の男と暖簾があらわれる。普通は違う流れがありそうだが、まったく同じ流れで純烈の一言から歌唱へと続いていく。そして、どこに惹かれたかは不明だが、2人はどうやら付き合い始めるらしい。

 番組ホームページには「“心の迷いや葛藤を捨て、良くも悪くも前へ突き進む勇気を持つ”まさに『純烈状態』へいざなうドラマ」とある。当たり前のように書かれている「純烈状態」がよくわからない。面白い番組や、つまらない番組は様々ある。けれど、わけのわからない番組はほとんどないから貴重だ。そんなトンパチなドラマを見ていると、良いとか悪いとか、すべてがどうでもよくなってくる。そうか、これが「純烈状態」なのかもしれない。妙にクセになる。

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source : 週刊文春 2025年3月27日号