(はらだつなお 版画家。1939(昭和14)年、東京都生まれ。多摩美術大学卒業。田中一光に師事後、日本デザインセンターを経てフリーに。海音寺潮五郎、吉川英治、司馬遼太郎、陳舜臣、宮城谷昌光、山本一力、安部龍太郎といった歴史小説家の作品の挿絵や装丁を数多く手がける。)

 

 僕は1945年3月10日の東京大空襲を見ているんですよ。当時は新宿区、今の戸山公園のあたりに住んでいました。父が陸軍戸山学校の軍楽隊に所属していたんです。

 1階で寝ていたらものすごく大きな音がしました。慌てて2階へ駆け上がった母のあとを追いかけて、僕も階段をよじのぼった。外を見ると、遠くにチラチラとガスコンロの炎のようなものが上がっている。周囲には橙色のオーロラが広がって、建物にも橙色のフィルターがかかっていた。夜中なのに昼間みたいに明るかった。東京の街を爆撃したB29の機体が、炎に照らされて金色に光っていた。今でも鮮明に覚えています。

 綺麗だな、と思いましたね。僕はまだ小さくて、そのとき何が起こったのかまったくわからなかったから。

 司馬遼太郎、宮城谷昌光、宮部みゆきなど、名だたる作家の挿絵を手がける版画家の原田維夫さんは、1939年生まれ。両親と5歳年下の弟・禎夫さんと4人で暮らしていた。

 庭に穴を掘って防空壕にしていました。空襲警報が鳴ると、母が赤ん坊の弟を抱いて、僕はミルクを飲ませるのに必要なものを持って逃げ込むんです。ゴザは敷いてても、土でザラザラして、カマドウマが山ほどいるなかで寝なきゃいけない。すごく嫌でしたね。

 大空襲のあと、父は母と僕と弟を自分の故郷に疎開させました。東京はもう駄目だと思ったらしい。

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source : 週刊文春 2025年4月10日号