「隠し味」というものが理解できない。本当に隠れているなら、だれにも気づかれないはずだし、気づかれないなら料理に入れても入れなくても同じではないかと思えるのだ。

 先日、ナスの肉味噌炒めを作ろうと思いたった。豚バラ肉の解凍に3時間ほどかけた。ふだんは半解凍のまま無理やりフライパンで熱していたが、今回は気合が違う。解凍に時間をかけて肉を最高の状態にするのだ(それが一番おいしいと何かに書いてあった)。

 数時間後、解凍した肉を見て愕然とした。そこにあるのは薄切り豚バラ肉ではなく、鶏のもも肉だった。解凍したぐらいで豚が鶏に変わるはずがない。わたしでも、薄っぺらいバラ肉と鶏のもも肉のこま切れの違いは分かる。短冊と消しゴムの違いは一目で分かる。念のためゴミ箱を調べて、ラベルが鶏のもも肉であることを確認した。

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source : 週刊文春 2025年4月10日号