やなせさんの元で編集者をしていた梯久美子さん、やなせさんを秘書として支えた越尾正子さん。2人だからこそ知る「やなせ先生、そして暢さんのこと」。

 

 私は20代の頃、やなせ先生が編集長を務められていた『詩とメルヘン』の編集者をしていました。途中から、発行元のサンリオを辞めてフリーランスの立場になると、不動産会社にアパートの賃貸契約を打ち切られてしまって。先生がご自身の住まいと仕事場のあるマンションの一室を紹介してくださって、そこに住んでいました。

越尾 私はやなせスタジオに入社する20年ほど前に、最初は奥さんの(のぶ)さんと知り合いました。といっても、お茶の教室の先輩後輩、そのうち先生と弟子になったのだけど、そこでのお付き合いしかありませんでしたね。暢さんもお喋りなタイプではなく、本当にお茶のことぐらいしか一緒に話していなかった。

 でも、その後、暢さんからやなせスタジオに来てくれないかと頼まれるわけですね。正式に働きはじめられたのはいつでしたか。

越尾 1992年の夏頃です。長らく暢さんとその妹さんがやなせ先生の秘書やスタジオの経理事務をされていて、後任を探されていたみたいでした。当時、皆さんは70代、暢さんはがんの闘病をされていたんですけど、私は全然そういったことを知らなくて。いま思うと、暢さんもご自身の限界を分かっていらっしゃったのかもしれません。

 私自身は40代半ばで、ちょうど勤めていた会社を辞めたタイミングでした。ふと「このまま仕事を続けていてもな、のんびり暮らそうや」なんて思い立って。それで、お茶の稽古は続けたいけど、当然お金はなくなるわけで、急に出られなくなったときのために、暢さんに事前に事情をお話ししようとしたんです。そうしたら「うちに来てくれない?」と。

 いざ正式に働きはじめられたら、通帳と実印、金庫の鍵もまとめて渡されたとか。

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source : 週刊文春 2025年5月1日・8日号