毎朝十五分、髙石あかりを観られるのを楽しみにしている。朝に観た後、昼の放送を観ることもある。私だけじゃない。他にもそういう人を知っている。それほど、『ばけばけ』の髙石あかりは素晴らしい。
彼女の出世作『ベイビーわるきゅーれ』は封切られるやいなや口コミで人気が広がり、インディーズ映画として異例の大ヒット。劇場版第二弾、第三弾が作られ、テレビ東京で深夜ドラマも放送された。髙石は伊澤彩織とともに、殺しの腕はピカイチ、でも社会には馴染めない女子高生殺し屋を演じた。殺し屋協会からの指令で仕方なく仕事をする二人だけど、ひとたびアクションシーンとなるとキレッキレ。スタントパフォーマーの伊澤に負けじと髙石もいい動きを見せる。そして、一仕事終えた後の“脱力系”の食事シーン。このギャップがいいんだよね。
『ばけばけ』で髙石が演じるのは、士族の一人娘で怪談が好きな松野トキ。「雪女」「耳なし芳一」など日本に古くから伝わる説話を記録した『怪談』の著者、小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)の妻・小泉セツがモデルになっている。

松野家は松江藩の上級武士だったが、明治に入って没落。祖父・勘右衛門(小日向文世)は時代の変化を受け入れられず、いまだに髷のままの“ラストサムライ”で、父・司之介(岡部たかし)は借金を作って一家は貧乏生活。トキは、自分が父と母・フミ(池脇千鶴)の実の子ではないことに気付いているが、家を支えるべく、しじみ売りで日銭を稼いでいる。普通だったらネガティブになったり、その健気さが可哀想に見えてもよさそうな状況なのに、トキはいつも明るく自然体だ。借金取りに遊郭に売られそうになる場面でも、「次はその太い腕引っ張って、遊郭連れていくけんのう!」 「あー、太い腕って言われた!」。脚本の妙もあるが、彼女が演じるとあざとい笑いにならない。人並みの幸せを積極的に求めようとする欲がないのは「ベビわる」にも共通する。
川島小鳥の写真が映し出されるオープニングもいい。松江や宍道湖(しんじこ)の美しい風景の中、ヘブンさん(トミー・バストウ)とトキの親しげな様子に心温まる。
印象的なのが、夜の映像の美しさだ。明治になったからといってすぐ電灯が普及したわけではない。暗闇に灯るロウソクはフランソワ・トリュフォーの「ロウソク三部作」を思わせる。そのロウソクを前に、トキは類いまれな能力で情緒たっぷりに怪談を語り、それをヘブンが目をらんらんとさせながら聞く――これが初回冒頭のシーン。この共同作業があったからこそ、『怪談』が現代に残る。その触媒になるのが、トキの天然でポジティブで、かといって高望みをしない人生なのだと思うと清々しい。
『ばけばけ』
NHK総合 月~土 8:00~
https://www.nhk.jp/g/ts/662ZX5J3WG/
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source : 週刊文春 2025年11月27日号






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