僕の部屋は3階にあるのだが、体調を崩して32段の階段を昇れなくなり、今は1階の小部屋にベッドを入れ、そこで暮らしている。

 先日、本を取りに手すりにすがる大冒険で久しぶりに戻った。やはり使い馴れた部屋はいい。天井までの背の高い本棚、大きなベッド、そして机。


 机は東南向きのガラス窓に面して置かれていて、夜明けから夕方まで陽が当る。目の前は一面に神社の森で緑がいっぱい。ぜいたくな借景である。隅の方に山桜が1本だけある。


 僕は長い間自分の机を持ったことがなかった。この家を建てたとき、小さな勉強部屋を作り、そこには造りつけの机もあったのだが、いつの間にか物置きになってしまった。閉鎖的な暗い部屋にしたのがいけなかったのだろう。少し僕には立派過ぎたのかもしれない。ちょっとした作文や調べものは食卓併用で充分なのである。

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source : 週刊文春 2026年3月26日号