この3月に定年退職を迎え、同じ会社に再雇用されました。仕事内容は補助的なものに変わり、かつての部下が上司です。頭では理解しているつもりですが、会議で意見を求められない自分に虚しさを感じます。どう折り合いをつければよいでしょうか。 

(60歳、男性)

 あのね、正直に言いますよ。あなたはとても真面目な人だね。これまで一日も休まずに働いて、きっと勉強もできて、答えもきちんと出せる。そうやって定年まで働いてきたんだと思う。だけど、いまあなたをちょっと邪魔しているのは、その「勉強ができる」というところなんじゃないかなァ、と思うんだ。

 勉強のできる人がよく陥りがちなのは、「答え」が一つだと思い込んでしまうこと。「頭では理解している」という時点で、あなたも正解を一つ出してしまっている。「かつての部下が上司になる。それが再雇用というものだ」と頭では理解しているから、「会議で意見を求められない」という現実を前にしたとき、「あれ、おかしいな。わかっているはずなのに、なぜ虚しいんだ」ってなるわけでしょ? 自分の中に答えが一個しかないから、気持ちと答えがずれたとき、心の行き場がなくなってしまうんだ。

 なので、こういうときに大事なのは、いつも頭の中に答えを二つ持つこと。例えば、会議で意見を求められないなら、「私はもう補助的な立場だから当然だ」という答えと同時に、「部下は私に意見を求めないことで、『先輩、自分はもう一人前になりましたよ』と伝えているのかもしれない」との答えを持てば、別の風景が目の前に広がってこないだろうか。そうすれば、会議の後、「お前も成長したな。俺も安心したよ」なんて言葉も笑って言えるかもしれない。「虚しさ」が少し違うものになるんだね。

 もうひとつ大事なことを言うね。

 あなたがその会議で黙っていたことにも、実は意味があるんだ。ぼくがテレビの人たちと長く仕事をしてきて、会議で喋り過ぎる先輩と黙ってニコニコしているだけの先輩とでは、若い連中に好かれるのは黙っている方の先輩だった。なぜかというと、若いスタッフはベテランの社員が黙っているだけで、「あの先輩が黙って見ているから、このままで大丈夫だ」と安心するものなの。つまり、何も言わないのは「心配ないよ」というメッセージ。言葉を使わずに、そこにいるだけでチームの雰囲気を丸くする。それができる人間が、本当に大きい人間なんじゃないかな。

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source : 週刊文春 2026年5月28日号