ウダ いつもお邪魔しているこちらのお宅には、馬の置物がいくつかありますね。


 僕には収集癖はないんだけど、なぜだろう、馬の置物はいろいろ集まってきちゃった。

 友人に勧められて譲ってもらったレプリカの唐三彩の馬は、今でも家にあるよ。黒澤明さんが来たときに見せると、馬に付いている土を指して、「この泥は付けとけよ」と言った。骨董品ではないから、たぶん登り窯で焼いたときに付いた土だろう。それも色合い、味わいとして楽しむもの、と黒澤さんに教わったよ。


サカマキ 馬がお好きなんですか。


 そう、小さい頃はね。どういうわけか馬が好きで、家にこもって馬の絵ばかり描いていた。母親の手製のわら半紙を綴じた、妙に横長の「スケッチブック」を与えられて、それに描いていたのを覚えている。馬の全身を描くには、その長方形が丁度よいサイズだったんだね。

 馬を描くときの快感は、足首の曲がり具合ね、あれがなんともいえずいいんだな。大人の客があると「馬の絵を描いて!」ってせがんだ。だけどたいていは、縦棒を2本引いた先に三角のひづめがあるだけの脚を描くの。僕は大いに不満だったなぁ。

 僕が生まれたのは千葉県松戸。昭和11年です。7歳で疎開するまで過ごした小さな家での思い出は全て楽しいことばかり。小さい家といってもそれは今思えばのはなしでね、当時はごくふつうのありふれた住まいだったのかもしれない。

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source : 週刊文春 2026年7月16日号