【前回のあらすじ】これは事実に基づいた物語である。2001年8月、父・秀一、母・亜弓のもとに生まれた(くさ)()耀(あきら)。一家は裕福な暮らしをしていたが、耀の幼稚園入園のために行った血液型検査がきっかけで、耀が秀一以外の男との間にできた子であることが発覚する。秀一は離婚手続きを進めるが、弁護士に、法的に親子関係を抹消するのは難しい、と言われる。

 ほどなく離婚は成立した。耀(あきら)の処遇はともかく、離婚の理由は社会通念的にみて亜弓側に非があり、いわゆる慰謝料の意味を持つ金銭の受け渡しはなかった。引っ越し費用を秀一が出した程度だった。

「それでいいよな」と秀一が念を押すと、亜弓は視線を合わせようともせず、他人事のように軽くうなずいただけだった。

 秀一はもはや興味はなかったが、結局亜弓は耀を連れて、ひとまずは母親のもとに身を寄せたと人づてに聞いた。

 亜弓は、練馬区にある公団で2歳上の兄とともに、共働きの両親に育てられた。両親は高校時代の同級生で、父親は都立高校の化学の、母親は区立中学の数学の教師だった。父親は2年前、入浴中に心筋梗塞を起こし急死している。

 亜弓自身、小中学校は区立、高校も都立へ通った。義務教育時代の成績も、高校のランクもそしてそこでの成績も、すべて「上の下」というあたりで、よくも悪くも目立たない存在だった。

 ただ、彼女の昔を知る人間はほとんど口を揃えて「遠くから見てもすぐに亜弓さんだとわかるぐらい、華のある人だった」と証言する。両親の容姿に関する明快な記録は残っていないが、残された写真からはむしろ地味な印象を受ける。

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source : 週刊文春 2026年7月16日号