(アドリブをうまく返せないのは役になり切れていないからでは、と悩む俳優見習いキクチとの対話がつづく)
よく「役を生きる」と言うけど、内実はぎりぎり、綱渡りなんだよ。常にいま生まれたような新鮮さを保つことは、とてもきつい。何しろ、瞬間瞬間に失敗という恐怖が穴を開けて待っているんだからね。ちょっと踏み外したら、すこーんと落っこちてしまう。怖いよ。だから俳優はつい決まりきった演技やテクニックにすがってしまう。安全運転をしてしまう。でもやっぱり、そこを手放して、綱渡りしないといけないんだ。
だから正直に言えば、失敗の繰り返しでね。うまくいったなんてことは滅多にないよ。気づいていないうちにうまくやっていたということはあるけれどね(笑)。ごく自然に演じていたらできたりする。
そして、ほんとうはもっと上がある。その瞬間は自分ではなくて、役なんだから、物ごとの感じ方、受け止め方が違ってこなければいけない。どんなことに感動するか、怒るか、喜ぶか。自分と役では違うはずなんだ。これも自分に暗示をかけるしかない。
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source : 週刊文春 2026年8月6日号






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