【前回までのあらすじ】これは事実に基づいた物語である。父・日下秀一、母・亜弓のもとに生まれた耀。耀が秀一の実子ではないことが発覚し、両親は離婚した。秀一は瀬里と再婚。火災により亜弓は死亡した。耀が秀一の家に「お試し泊」をした夜、火事に見舞われる。耀は裕福な桑原律夫・篤代夫妻の養子になるが、桑原家に強盗が押し入る。事件後、夫妻は耀と「離縁」した。
律夫の心理的な面に関しては、単なる想像ではなく、ある人物が律夫本人から直接聞いた話を根拠にしている。
その証言者が誰なのかは語れない。ほかと同じように、仮に佐藤さんとでも呼ぶ。
佐藤さんは、事件後に耀を「離縁」することについて、律夫から相談を受けた人物だ。
「たとえ全財産を投げ出してもいいから、あの子とは縁を切りたい」
あれほど快活だった律夫氏が、青白い顔をしてそう語っていたそうだ。耀の残した傷痕をあちらこちらで発見するたび、律夫の聡明さが際立って見える。
律夫にその判断をさせた事情は、一つではなかった。
耀が家に来てから、いままで起きなかったような不吉なことが続けて起きるようになった。
たとえば、大切にしていた庭木の枝が折れている。また別の木の枝には蛇の死骸が縛りつけられている。冷蔵庫から出した味噌入れの蓋を開けたら、中から数匹のゴキブリが這い出したときは、大げさでなく篤代は失神したらしい。
初回登録は初月300円で
すべての記事が読み放題
既に有料会員の方はログインして続きを読む
※オンライン書店「Fujisan.co.jp」限定で「電子版+雑誌プラン」がございます。ご希望の方はこちらからお申し込みください。
source : 週刊文春 2026年10月15日号
お気に入り記事