【前回までのあらすじ】これは事実に基づいた物語である。父・日下秀一、母・亜弓のもとに生まれた耀。耀が秀一の実子ではないことが発覚し、両親は離婚した。秀一は瀬里と再婚。火災により亜弓は死亡した。耀は裕福な桑原律夫・篤代夫妻の養子になるが、数年後、桑原家からの3000万円の支援を条件に、秀一は耀を引き取った。耀は紗香が通う私立中学を受験し、合格した。
紗香は小学校3年生の大晦日に起きた火事によって火傷を負った。1か所は背中で、服を着ているあいだは見えない。学校の水着になると一部が見えたが、火事以来紗香がプールの授業をすべて「見学」したのは、このせいではない。
背中以外にも2か所の火傷を負った。一つは左目の下、頬骨のあたりに長径、短径ともに2センチほど、もう一つは左の耳の上にこちらは長径が5センチ余り、短径が4センチほどの大きさの楕円形の痕が残った。
頬の火傷のほうは、熱傷深度が浅かったことと、その後の形成手術によって、そのつもりで見なければ気がつかない程度に治癒していた。しかし、耳の上の部分は「Ⅲ度熱傷」と呼ばれるもっとも重い症状で、毛根も損傷しひきつったような肌が露出した。
紗香は当初、日常生活において、市販のニット帽をかぶっていた。その後、オーダーメイド的に瀬里に手作りしてもらうようになった。これは学校側の了解をとって授業中も装着している。しかし、プールに入ると露出することになる。水泳帽は被るが、シャワーや着替え、髪を拭う際などにどうしても取らねばならない瞬間がある。紗香はそれが嫌だった。

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source : 週刊文春 2026年11月5日号
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