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「オミクロン株」とは?|池上彰

池上彰のそこからですか!? 第505回

池上 彰
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 新型コロナウイルスの新規感染者数が減って、旅行客が増えるなど、日本国内ではコロナ禍前に戻りつつあったのに、ここへ来て「オミクロン株」が発生。日本政府は原則として全ての外国人の入国を禁止し、水際で感染を防ごうとしています。やれ、やれ、また不自由な日々が続くのかとがっかりしている人も多いでしょうね。年末年始はどうなるのか。

 オミクロン株は南アフリカで見つかったのに、なぜ南アフリカ以外の国からの人も入国禁止にしたのでしょうか。それは、オミクロン株が南アフリカで生まれたとは言い切れないからです。

 アフリカ諸国は医療機関が貧弱なところもあり、コロナ患者の把握が十分できていませんが、南アフリカには専門の研究機関もあるため、新しい変異株だと気づけたのです。

 つまり、各国に感染が広がっているのは、南アフリカ発祥とは限らないのです。他国で誕生した変異株のウイルスが南アフリカで発見されただけかも知れないからです。そこで、南アフリカやその周辺諸国だけでなく、世界中を対象に“鎖国”に踏み切ったというわけです。

 そこで今回は、改めてコロナウイルスについておさらいをしておきましょう。

 コロナウイルスは、「スパイク」と呼ばれるトゲトゲがいっぱいあって、これが人間の細胞の表面の受容体に、いわば刺さるような形で取り付き、細胞内に侵入します。いったん侵入に成功すると、細胞を乗っ取り、自分のコピーを大量に作らせます。細胞がウイルスでいっぱいになると、細胞を破って外に出て、さらに別の細胞に向かっていきます。

 人間の免疫は、「ウイルスが入ってきた!」と緊急事態を知らせ、ウイルスと戦いますが、このとき高熱を発し、細胞が炎症を起こしたりして、発病します。

 ワクチンは、ウイルスのスパイクが人間の細胞に刺さらないように、妨害する抗体を体内に作り出すものです。

 ところがコロナウイルスは、人間の細胞内で自分のコピーを作らせる際、しばしばコピーミスを起こします。コピーミスで生まれたものが変異株です。

 変異株の中には、人間への感染力を失ったものもあり、こういう類なら消えていきます。しかし、中には感染力が強くなってしまうものもあります。今回のオミクロン株は、まだ詳細が判明していないのですが、どうやら感染力が強そうなので警戒されているのです。

 オミクロン株が厄介なのは、スパイクの部分に約30もの変異が起きているという点です。スパイクの形が変わっていると、せっかくワクチン投与で作った抗体が、スパイクの細胞内への侵入を十分に阻止できないのではないかと心配されているのです。

 では、コロナウイルスは、なぜ変異しやすいのか。それは遺伝情報が入っているのがRNAだからです。

変異株はギリシャ文字で表記

 遺伝情報を伝えるものにはDNAとRNAがあります。このあたりは中学や高校の生物の授業で学ぶのですが、覚えていますか?

 DNAは塩基と呼ばれる物質が鎖状につながっています。これは2本あり、らせん状になっています。いわゆる「二重らせん」です。二重になっていることによって、相方の塩基がコピーミスで別物になっても、それをチェックし、正常に戻すことが可能です。いわば出版社の校正係のような役割を果たすことができます。ところがRNAは鎖が1本だけ。コピーミスが起きても修正ができないのです。たとえて言えば、校正してくれる人がいない素人がネットで間違った情報を発信するようなものです。コロナウイルスはRNAなので、しばしば変異するのです。

 このコロナウイルスについて、去年春にはアメリカのトランプ大統領が「チャイナ・ウイルス」などと呼んでいましたが、WHO(世界保健機関)はCOVID-19と名付けました。「コロナウイルスによる感染症2019年」という意味です。

 これは、100年前に大流行した「スペイン風邪」の教訓からです。スぺイン風邪は、当時は風邪とインフルエンザの区別がわかっていなかったため、こう呼ばれましたが、実際はインフルエンザでした。

 大流行は第一次世界大戦中のヨーロッパで起きました。両軍の兵士がバタバタと倒れたのですが、両軍とも「敵に知られたら大変」と考え、報道管制を敷きました。ところがスペインは中立国だったので、「国王が風邪にかかった」などという報道が出て、「スペイン風邪」という名称が定着してしまいました。スペインは冤罪をこうむったのです。

 WHOはこの教訓から、コロナウイルスに国名をつけない方針でやってきました。

 ところが、変異株が見つかるたびに、「イギリス株」や「インド株」などと呼ばれてしまいました。これではインドなどに対する偏見が生まれかねません。インドは変異株を発見できただけだったかも知れないからです。

 そこでWHOが採用した方式が、「変異株にはギリシャ文字を割り振る」ということでした。かくしてアルファ株やベータ株、デルタ株などと呼んでいたのです。

 これまではギリシャ文字の12番目のミュー株まで発見されていました。次に見つかればニュー株と名付けられるはずだったのですが、それでは英語の「ニュー」と混同されやすいという判断から飛ばすことにしました。

 その次は「クサイ」ですが、これを英語表記すると「Xi」になり、英語読みでは「シー」で、習近平国家主席の「習」の発音と同じになります。WHOは、これを避けるために15番目のオミクロンにしたのではないかと見られています。WHOは、本当に忖度したのか。なんだか“クサイ”ですね。
 

イラストレーション 3rdeye

source : 週刊文春 2021年12月16日号

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