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第39回 日大田中事件を「予言」していた男

「週刊文春」編集長
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 先週のニュースレターで、プラン会議で先輩記者が何の話をしているか理解できない新人のエピソードを書きました。ただ、中には新人の知識不足と責められないケースもあるのです。先輩のプランが、その何年後か起きる事件を“予言”していたとしたら……。今週は、そんな先輩のお話です。

 日大のドンとして君臨してきた田中英寿理事長が東京地検特捜部に逮捕され、理事長辞任に追い込まれました。ついに起きた日大田中帝国の崩壊――。何年も前に、田中氏と今回逮捕されたお仲間の話をプランとしてあげていたのが、西崎伸彦記者でした。14年にわたって「週刊文春」の特派記者として活躍し、2020年11月からフリーのジャーナリストとして健筆をふるっています。

 私が西崎さんの凄さを知ったのは、「週刊文春」にデスクとして戻ってきた3カ月後のこと。巨人の原辰德監督が、選手時代に女性問題を暴力団に脅され1億円を支払っていたという衝撃的なスクープを放ったのです。記事は球界を震撼させ、この号は完売しました。暴力団と巨人という取材難易度が日本最高レベルの組織を相手にして、見事にファクトを掴み、描き切ったのです。西崎さんにしかできない取材でした。この時、入社2年目の社員でアシとしてチームに入っていたのが、現・「週刊文春 電子版」コンテンツディレクターの村井弦君です。

 西崎さんは、私が編集長になってからも、まさに編集部の大黒柱でした。彼の得意分野は、東京地検特捜部が捜査対象とするような政界、経済界、スポーツ界、暴力団など各界のドン、フィクサー、事件師たちが絡みあうディープな事件です。ただ、西崎さんのエースたる所以は、決して「ノー」と言ったり、手を抜いたりしないこと。私が編集長時代、川崎市登戸通り魔事件などの大きな殺人事件が相次いだことがありました。「困った時の西崎さん」で発注するのですが、大チームを見事に指揮しつつ、キーとなる情報は自ら取ってくる。そして、何より原稿が早くて上手い。アシにつくと、若手記者たちも燃える。まごうことなき「絶対エース」でした。

 そんな西崎記者ですが、「早すぎる男」でもあります。事件がはじける前に情報を掴むのですが、それが早すぎて、東京地検や警察が立件できたのは、何年も後だった。その最たる例が、日大・田中理事長でした。私も、西崎さんのプランとして、何度も聞いていました。今回、ついに時代が追いついたのです。

 西崎さんには、日大問題を何度も書いてもらっていますが、例えば、特捜部の捜査で田中氏の自宅から1億円が見つかっていたことなど、どの新聞より先に書いています。そして、今週号では田中氏が白旗をあげるきっかけとなった優子夫人について3ページ書いてもらいました。他の媒体では読めない、夫婦の歴史。知られざるファクトに加えて、青森から出てきた相撲の強い男と演歌歌手になれなかった女が出会い、金と力を掴み、転落していくさまを見事な筆で描いています。優れたノンフィクションは、まるで小説のようであることを教えてくれる原稿です。

 小誌や他の媒体でも、「西崎伸彦」の記事は見逃してはいけません。「情報通」になりたいなら、西崎記者の記事は必ず読むことです。フリーとなって、今後は単行本も出版すると聞いています。今から楽しみです。

「週刊文春」編集長 加藤晃彦

source : 週刊文春

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