認知症と診断された母。95歳を超えて家事を始めた父。テレビディレクターの娘は両親の「老老介護」を撮影し続けた。カメラが映し出したのは誰にも訪れる宿命と美しい愛だった――切なくも温かい、ある家族の物語。

 広島県呉市。瀬戸内海に面した港町の片隅にある小さな家に私の父は暮らしています。信友良則、101歳。そして、家じゅうが見渡せる居間にある仏壇からは、母の文子(ふみこ)がとびきりの笑顔をふりまいています。社交的で、優しくて、誰とでも仲良くなってしまう、自慢のお母さん。

 2020年6月、母は1年8カ月の入院生活の末に91歳で亡くなりました。

「おっ母も独りで墓に入れたら寂しいじゃろうけん。わしが死んだ時に一緒に入れてくれ」

 父がそう言うので、お骨は仏壇に置いてあります。

 不思議なことに、私の中には悲しみよりも、母がいつでも見守ってくれているという安心感があります。母は入院中、慣れ親しんだ家に帰ることを願っていました。それは叶いませんでしたが、こうして父と私のもとに帰ってきました。楽しかった3人暮らしに戻ったような気がするのです。

「家に帰れてよかったね。おかえり、お母さん」

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source : 週刊文春 2022年3月31日号