(やなぎやさんざ 落語家。1974(昭和49)年、神奈川県生まれ。高校卒業後、柳家小三治に入門。前座名は「小多け」。96年、二ツ目に昇進し「三三」と改名。2006年に真打昇進。花形演芸大賞等、受賞歴多数。毎月開催の「月例 三三独演」も人気。近著に『前略、高座から――。』(三栄)。)

 

 あるとき、自分の落語を振り返って「あー、これでは子供の頃の自分は全然喜ばないな」と思ったんです。以来、「今自分が演(や)っているこの落語は、子供だったときの自分が純粋に面白いと思えるものになっているか?」と考えるようになりました。

 年間の高座が600を超える、古典落語の名手の柳家三三さん。1974年、音響メーカーの赤井電機に勤める父と、専業主婦の母の元、神奈川県小田原市に生まれた。

 生家は父方の祖父母が戦中から住んでいた一軒家でした。覚えているのは、土間の台所、勝手口から入ると突き当たりに竈(かまど)があり、その裏が風呂場だったことぐらい。祖父母と両親、2歳上の兄、3歳下の妹との7人暮らしでした。

イラストレーション 市川興一/いしいつとむ

 幼稚園児のとき、父がこの家を5DKの箱型住宅に建て替えました。箱型住宅って、箱型の部屋を積み木みたいにクレーンで積んで建てていくんですね。雨が降るなか傘をさしながら、家族と一緒にその様子をずっと見ていました。このとき幼心に思ったのは、おー、家っていうのは1日で建つものなんだなと(笑)。

 小さい頃は、就寝時間になると父親が子供部屋に見回りにきました。兄と僕がまだ寝ていないと、僕たちは1メートルの竹の物差しでお尻を叩かれるんです。布団をめくられ、お尻を剥き出しにさせられて。父はそんなに怖い人ではなかったけれど、そこだけは厳しかった。

落語に出会ったのは小学1年生のとき。男と女が騙し合う廓噺だった

 小田原は曽我梅林などがあって梅が有名ですが、家のすぐ横も梅林でした。子供の頃はそこで梅を拾い、母親が梅干しにするのが毎年初夏の恒例行事。だから庭の物置の瓶には年代ものの梅干しがいくらでもありました。さらにその物置の前にはなぜかミョウガが群生していて。なので、大人になってから店で梅干しやミョウガを買うのは、何だかお金がもったいないような気がしましたね。

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source : 週刊文春 2022年3月31日号