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英語が苦手なベテラン社員は…|三木谷浩史

三木谷浩史「未来」 第42回

三木谷 浩史
ビジネス 社会 企業

 グローバル企業は、どんな企業も英語で話す――2010年、楽天グループの社内公用語を英語にすると決めた狙いはこの一点に尽きた。人口減少が進む日本の企業が今後生き残っていくには、世界進出が不可欠。英語公用語化とは「楽天は本気でグローバル企業になる」というメッセージでもあった。

 AppleのiPhoneを見れば分かる通り、世界のイノベーションは、様々な技術を組み合わせて新たな価値や市場を作ることへと置き換わっていった。生き残るためにはグローバルなコミュニケーション能力が必須であり、英語力はその土台。日本の成長が止まったのは、国家レベルで英語力を鍛えようとしなかった姿勢と決して無関係ではないと思う。

 英語公用語化には当時、多くの賛否両論が寄せられた。「日本人同士で英語を話しても無意味だ」「一部の英語が必要な部署だけでいいのではないか」といった批判も耳にしたし、呆れたのは、「日本語を捨てるつもりか」とか「日本文化を蔑ろにするな」といった声すらあったことだ。

 企業の公用語を英語に変えることが日本語や日本文化を蔑ろにするという意味が分からない。英語はあくまでグローバルビジネスを展開するための手段であり、英語が世界のビジネスの公用語になっているのだから、それを全員が使えるようにするのがビジネス戦略として正しいというだけの単純な話である。

 英語力は日本語能力を低下させないし、日本の魅力を世界に伝える重要な手段でもあるはずだ。

 だが一方で、こうした声が根強く残っているところに、日本の英語教育の病理があるとも感じる。

誰でも1000時間で

 僕自身が学校で受けた教育を思い返してみても、日本での授業は子どもたちを「英語でのコミュニケーション」から遠ざけようとしているかのようだった。英語をきちんと話せない教師、動詞の時制やbe動詞の変化にこだわり、英訳や日本語訳をひたすら子供たちに課す手法……。おかしなルールもたくさんあった。日本人が英語を自由に話せるようになると、既得権益を奪われる人々がいて、彼らが「言語鎖国」のような政策を継続しているのでないか、と訝りたい気持ちにもなるほどだ。

 では、楽天での英語公用語化プロジェクトはどのように進めていったのか。

 まずは、移行期間を2年間と定めた。インド人や中国人の社員を見ていると、およそ3カ月間で仕事に必要なレベルの日本語を習得していた。そこで言語の習得は、必死にやれば誰もが1000時間で可能だという仮説を立てたわけだ。英語に触れる時間を少なくとも1日に1時間、普段は2時間作り出してもらえば、2年で1000時間を超える。ちなみに小学校から大学まで平均的な日本人は約2000時間もの英語教育を受けている。それなのに、多くの人が全く英語を話せないというのなら、いかに学校での英語教育が時間を無駄に使っているか、よく分かるだろう。

小学校の授業で使われる英語教材

 そして、定例の会議を順次、英語化していき、最終的にはTOEICのスコアを昇格の条件に加えた。こうした大枠を設定し、会社から様々なサポートを行えば、英語の公用語化は十分に可能だと踏んだのだ。

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source : 週刊文春 2022年5月19日号

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