楽天モバイルをCEOとして率いる仲間に、タレック・アミンというヨルダン出身のエンジニアがいる。
彼は幼い頃からコンピュータ工学に才気を見せ、アメリカで過ごした学生時代にはインテルから声がかかるほどの優秀な人物だった。そのキャリアは、モバイル通信業界の最前線で常に活躍している華々しいものだ。T-Mobile社やファーウェイ・テクノロジーズを渡り歩き、2013年からはインドの通信会社リライアンス・ジオの上級副社長を務めていた。
リライアンス・ジオは、当時、世界の携帯業界の中でとても注目を集めていた会社。タレックはそこから楽天モバイルに加わってくれた。楽天が世界に先駆けて、次世代ネットワーク技術として導入した「完全仮想化クラウドネイティブモバイルネットワーク」の構築を牽引しているのが、タレックだ。仮想化ネットワークは、無線アクセスを全てソフトウェアだけで動かす僕らの通信事業の要となる技術であり、その構築には彼の存在が不可欠だった。
世界の携帯業界にとって“キーパーソン”でもあったタレックが、楽天グループに来てくれたのは2018年のことだ。彼に初めて会ったのは、バルセロナで開催される世界最大の携帯関係の見本市「モバイル・ワールド・コングレス」。その後、改めて話す機会を持ち、しばらく雑談を交わした後、「もしよければうちに来ない?」と聞くと、二つ返事で「行くよ」と言ってくれたのが、印象的だった。とても気軽なやり取りで、僕からすれば「ほんとに来ちゃうの? マジで?」と思ったくらいだ。
日本で仮想化ネットワークを構築し、通信事業に革新をもたらしていく仕事は、彼のようなエンジニアにとって壮大な実験であり、もっと言えば大きなプレイグラウンド(遊び場)のように感じられたのだろう。
「できるわけがない」
さて、僕がタレックの入社の経緯を書いたのは、彼のような人材が楽天になぜすんなりと来てくれたのか、その大きな背景の一つに、2010年に打ち出した社内での英語公用語化があったと考えているからだ。
当時、僕が朝会で全社員に向けて英語の公用語化を発表した時、社内からも社外からも批判や、「できるわけがない」という声が上がった。
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source : 週刊文春 2022年4月28日号