アメリカで人工中絶の権利が消えようとしている。
5月2日、連邦最高裁判所のサミュエル・アリート判事の意見書の草案が流出した。これは6月に判決が出るはずだった、ミシシッピ州の妊娠15週目以降の中絶を禁止する州法の憲法判断についてのもの。
これで全米が揺れている。なぜかというと……。
かつて、アメリカの多くの州で中絶は犯罪とされていた。しかし1973年、連邦最高裁が「中絶の権利は憲法が保障する女性の権利である」と認め、やっと全米で合法化された。それ以来、中絶は神に背く罪だと信じるキリスト教保守(福音派とカトリック)が再び中絶を禁止してくれる保守的な最高裁判事を求めてきた。
最高裁判事を任命できるのは大統領だけ。1980年の大統領選挙で共和党のロナルド・レーガン候補が福音派に保守的判事の任命を約束し、彼らの票を集めて当選。以来42年間、共和党はキリスト教保守の票目当てで、中絶の再禁止を党是に掲げてきた。
最高裁の評決は9人の判事の多数決で決まる。ドナルド・トランプ前大統領は4年の任期中に3人もの保守派判事を任命し、最高裁判事9人中、共和党任命の保守派が6人、民主党任命のリベラルが3人と差をつけた。中絶の再禁止は確実になった。
そこで南部や中西部の保守的な州の政府が次々に中絶を禁止する州法を成立させた。州議会が共和党に多数支配されているからだ。あとは、最高裁が判決を出すだけになった。
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source : 週刊文春 2022年5月26日号