「虹の彼方に、青い鳥が飛ぶ幸福の国があるのかしら」
地平線いっぱいにトウモロコシ畑が広がるカンザスから旅立つことを夢見ていた少女ドロシーは竜巻で、オズの国に吹き飛ばされる。映画『オズの魔法使』の始まりだ。
ドロシーはオズの魔法使いを探す旅に出る。魔法使いはどんな願いもかなえてくれるという。途中でドロシーは、知恵が欲しい案山子、勇気が欲しいライオン、心が欲しいブリキマンと出会い、仲間になる。
冒険の果てに会った魔法使いはただの詐欺師だった。彼は案山子に大学の卒業証書を、ライオンに勇者の勲章を、ブリキマンに心臓の代わりに脈打つ時計をくれる。3人ともそれで満足。要は気の持ちよう。魔法でも、ただのビタミン剤でも「効く」と思い込めば効く。
そんなインチキの代名詞みたいな「オズ」という名の医者がアメリカで大人気になった。
メフメト・オズというトルコ系の心臓外科医で、2003年から平日昼間のトークショーに出演して健康法を披露し、ハンサムなルックスで女性から人気を集め、タイム誌の「最も影響力のある100人」に選ばれた。2009年からは自分の番組「ドクター・オズ・ショー」を始め、著書はベストセラーになり、雑誌を創刊し、サプリから石鹸、枕まであらゆる健康グッズを販売し、ついには今年2022年の選挙で、ペンシルヴェニア州の上院に共和党での出馬を表明した。えーと、トランプ元大統領の支持を受けて。
そして案の定、ドクター・オズが紹介していた健康法は医学関係者から「科学的根拠なし」と批判されている。たとえば、コーヒーの生豆から抽出した減量サプリ、アフリカの植物ウンカロアボの根による風邪薬、イチゴと重曹による歯のホワイトニング、それに抗マラリア薬のヒドロキシクロロキンによるコロナ治療。そう、トランプがコロナに効くと言ってたアレだ。
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source : 週刊文春 2022年5月19日号