(いのうえやちよ 京舞井上流五世家元。1956年、京都府生まれ。3歳で井上流入門。祖母である京舞の四世八千代の指導を受け、研鑽を積む。2000年に五世井上八千代を襲名。2015年、人間国宝に認定。現在も芸舞妓をはじめとする弟子に指導を行い、京舞の普及に尽力している。著書に『京舞つれづれ』。)
NHKの連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」によく登場していた京都の「嵐電(らんでん)」こと京福電鉄。その高雄口駅(現・宇多野駅)の真ん前にある家が、私が生まれて最初に生活をしていた家でした。祖父(観世流シテ方能楽師だった片山博通、八世片山九郎右衛門)が若い頃、胸を患(わずろ)うたんですね。自宅はもともと京都市東山区新門前にあったのですが、療養のために空気の良い高雄口に家を建てたといわれております。その時、祖母(京舞の人間国宝、四世井上八千代)がお世話をしたのが二人の馴れ初め。ですから思い出の家やったようですね。両親もそこで新婚生活を送りました。かれこれ築百年ほどになりますが、その家、今もあるんですよ。
京舞井上流は約200年前、京都で初世井上八千代が興し、能や人形浄瑠璃の影響も受けながら花街の座敷舞として洗練を重ねた。「おいど(腰)を下ろす」基本動作に始まり、端正な動きで豊富なイメージを描く。井上流の師匠や祇園の芸妓、舞妓ら弟子は女性が占め、当代井上八千代さんはその五世家元。1956(昭和31)年、観世流シテ方の人間国宝だった九世片山九郎右衛門(幽雪)さんと主婦・ひろ子さんの間に、片山家の長女・三千子として誕生した。
生家があるのは京都市内とはいえ田舎で、田んぼしかないような空気のええところ。当時としてはハイカラな和洋折衷の2階建てで、天気のいい時は芝生の庭でご飯を頂いた記憶があります。
玄関を入ってすぐの部屋がフローリングの洋室で、客間のように使ってましたね。その隣にサンルームのようなもの、そして畳の部屋があり、祖母がそこで長らくお稽古してました。お台所は旧式でしたが、2階にも畳の和室だけでなく、出窓のある洋室がありました。
幼少期から続いた祖母の厳しい稽古。お蔵に閉じ込められたことも
お隣に家庭菜園があって、父が畑作業をしたり、ボタンを植えたり。今は弟(片山清司、十世片山九郎右衛門)がこの家を管理しており、私も衣装や着物を置かせてもらっています。
もともと舞妓だった祖母は三世井上八千代に見いだされて弟子入りし、片山家に嫁ぎ、家元となった。以来、この家では男は能、女は京舞を継ぐことが運命づけられる。祖母には娘がいなかったため、八千代さんは待望の跡継ぎ。祖母が口ずさむ舞の唄が子守歌代わりだったという。
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source : 週刊文春 2022年6月9日号