僕の父・三木谷良一は、2013年11月にすい臓がんで亡くなった。83歳だった。がんが見つかった時はすでにステージ4。2012年秋に医師から「あと3か月」と伝えられた時は、「そんなバカな……」と途方に暮れたことを覚えている。

 当時、父は「あと3年くらいは、生きたい」と思っていたようだ。僕は経済学者だった父からは多くのことを教わり、経営者になった後も、彼の存在に支えてもらってきたという思いがある。ただ、すい臓がんの治療はとても難しいと言われる。その後、できる限りの治療を模索したものの、様々な抗がん剤治療を受けた後、告知からおよそ1年後に亡くなった。

 そんな父の闘病によって、僕がこれまでのキャリアの中で初めて出会ったのが、「医療」という分野だった。

 ただ、父の病気が分かった時、僕には「医療」の世界に関する知識が全くと言っていいほどなかった。経済のことは学者だった父と議論するほどになっていても、がんについては詳しいことは何も知らず、それこそ「抗がん剤とは何か?」「放射線治療ってどういうもの?」というレベル。病気や治療のメカニズムもよく分かっておらず、基礎的な教科書を買い込んで読むところから勉強を始めた。

 そうやって一通りの知識を身に付けつつ、とにもかくにも始めたことがあった。それは、「足」を使って世界中を回り、最先端のがん治療の情報に触れることだった。

 そんなふうに「足」を使って動き回るのは、「新しいこと」に向き合う際、僕が大事にしている姿勢の一つだ。楽天グループを創業し、「インターネット」の世界に飛び込んだ時もそうだった。

世界中を飛び回った

 ECサイトの楽天市場を作る際、僕らはインターネットについて全くの“素人”だった。そんななか、基礎的なテキストを読んでシステムを作り、営業ではとにかく日本全国を這いつくばって回ってみる。何も手元には持ってはいなかったけれど、活動量と運動量だけは誰にも負けない。そんな思いを胸に経営を前に進めようと必死だった。

初回登録は初月300円で
この続きが読めます。

有料会員になると、
全ての記事が読み放題

  • 月額プラン

    1カ月更新

    2,200円/月

    初回登録は初月300円

  • 年額プラン

    22,000円一括払い・1年更新

    1,833円/月

※オンライン書店「Fujisan.co.jp」限定で「電子版+雑誌プラン」がございます。ご希望の方はこちらからお申し込みください。

有料会員になると…

世の中を揺るがすスクープが雑誌発売日の1日前に読める!

  • スクープ記事をいち早く読める
  • 電子版オリジナル記事が読める
  • 解説番組が視聴できる
  • 会員限定ニュースレターが読める
有料会員についてもっと詳しく見る
  • 0

  • 0

  • 0

source : 週刊文春 2022年6月9日号