地政学という言葉をよく見聞きするようになりました。「地理」と「政治」を合体させた用語で、その国が位置する地理的立場によって国際情勢を分析する学問です。今回のロシアによる軍事侵攻を見ても、ロシアと国境を接していたり、近隣に位置したり、条件によって、その国の方針が大きく異なっています。

 こうした地理的立場を有効に使っているのがトルコです。トルコはアジアとヨーロッパの境に位置し、黒海に入るには、トルコのボスポラス海峡などを通過しなければなりません。黒海の北部に位置するのがロシアとウクライナですから、トルコは、その地理的立場を生かして両国の停戦仲介役に名乗り出ています。

 トルコは、そもそもはソ連の存在を脅威に感じ、NATO(北大西洋条約機構)が成立した3年後の1952年から加盟しています。一時はアメリカがソ連の首都モスクワに届く核ミサイルを配備していたこともあります。1962年、ソ連がキューバに核ミサイルを配備しようとしていることを知ったアメリカのケネディ大統領がキューバを海上封鎖し、ミサイルを撤去させる「キューバ危機」が起こりました。このとき実はアメリカはトルコに配備していた核ミサイルを撤去することと引き換えにキューバのミサイルを撤去させていました。

 ソ連が崩壊してロシアが成立してもトルコはロシアへの警戒感を持ち続けます。2015年11月にはトルコ軍の戦闘機が、ロシア軍の戦闘機を領空侵犯したとして撃墜。乗員二人はパラシュートで脱出しましたが、トルコ国境近くのシリア国内に降り、一人はシリアの反政府武装勢力によって殺害されています。

 しかし、両国の関係は、翌年の2016年7月、トルコのエルドアン大統領に対する軍のクーデター計画が未遂に終わってから改善されます。何があったのか。イランの政府系通信社ファルス通信は当時、「クーデター計画をロシアが事前に察知し、エルドアン大統領に伝えていた」と報じたのです。

 この報道をロシアもトルコも認めていませんが、エルドアン大統領がなぜ直前にクーデター計画を知ることができたかの説明にはなっています。もしこれが事実なら、エルドアン大統領としてはプーチン大統領に恩義を感じているはずです。ロシアのウクライナ侵攻に対してNATO加盟国ながら経済制裁に踏み切っていない理由も理解できます。

 さらに2019年にトルコがロシアのミサイルシステムS400を購入した理由も説明が可能です。本来NATOの仮想敵国であるロシアのミサイルを購入するなど、NATO諸国からすれば言語道断。アメリカはその制裁としてアメリカ製の戦闘機を売らないと通告していますが、トルコとしてはロシアへの恩返しなのでしょう。

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source : 週刊文春 2022年6月23日号