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「ここはぼくの住む国だ」、そう確信して自分の「お城」となる古民家を探しました。|アレックス・カー

新・家の履歴書 第786回 

稲泉 連
ライフ ライフスタイル

(アレックス・カー 東洋文化研究家。1952年、アメリカ生まれ。イエール大学で日本学専攻、オックスフォード大学ではローズ奨学生として中国学を専攻。73年から徳島県祖谷で古民家再生の活動を行う。京都や香川などで古民家のリノベーションを企画監修した。著書『美しき日本の残像』(94)で第7回新潮学芸賞受賞。)

 

 ぼくがいま暮らしている京都府の亀岡の自宅は、かつては天神さんの社務所として使われていた建物です。建てられたのは400年前、大昔は尼寺だったそうで、江戸中期に移築されたと聞いています。

 初めてこの「家」を訪れたときのことは、決して忘れられません。

 25歳だったぼくは後に語るある理由から、亀岡に家を探していました。周囲に田んぼの広がる神社の境内に入るとすぐに、朽ちかけたような30坪ほどの小さな建物がありました。扉を開けた先の土間は真っ暗で、天井には木材がびっしりと置かれていました。建物の中なのに、木と土と、煤の香りがする。ぼくがそこからお座敷に上がり、薄暗い部屋に光を入れるために雨戸を開けようとした時です。雨戸に少し触った途端、音を立ててばたんと落ちてしまった。瞬間、目のくらむような夏の太陽の光が部屋を照らし、世界が立ち現れるように神社の藪だらけの庭が目に飛び込んできました。

 それはなんと美しい光景だったでしょうか。水道も何もない古い建物でしたが、ぼくはその光景の前に立ち尽くし、「ここが自分の家だ」と確信したのです。

 東洋文化研究家のアレックス・カーさんは1952年、米メリーランド州に生まれた。海軍の弁護士だった父親の仕事の関係で、6歳でイタリアのナポリ、9歳からはワシントンDCで暮らし、東京オリンピックの開かれた64年、横浜の米海軍基地に滞在して「日本」と出会った。

 ぼくが憶えているのはナポリで住んでいた3、4階建ての古いアパート。なぜか床が大理石で、冬場、その床の冷たさといったら!

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source : 週刊文春 2022年6月23日号

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