今年5月23日の月曜日の朝、僕はヴィッセル神戸の練習場「いぶきの森球技場」へ向かう車の中で、これからどんな「言葉」を選手たちに語るべきだろうかと、彼らの待つ控室に行くまでの間、考え続け、自問自答していた。

 チームの今シーズンの成績はその時点でリーグ最下位。サポーターの皆さんからも多くの厳しいメッセージを受け取っていた。楽天グループのビジネスが大きくなっていくなか、僕自身がヴィッセル神戸の会長として居続ける状況が、果たして良いことなのか。

「神戸讃歌」を合唱するヴィッセル神戸のサポーター

 けれど、クラブに対する思い入れも深く、ここで逃げるように退任するのは自分らしくない――様々な気持ちが胸の裡では混ざりあっていた。

 何を話すべきか、それでも、控室に集まってもらった選手たちの顔を見た時、自然と「言葉」が込み上げてきた。それは、僕が、楽天をゼロから創業した時の、いわば原点の想いに近かったかもしれない。

 彼らには「1分間、自分のサッカー人生を振り返ってみて欲しい」と問いかけた。

 クラブが厳しい状況の時、なぜそうしたメッセージを発したのか。今回は、その意味について綴ってみたい。

 僕がヴィッセル神戸にここまで強いこだわりを持つようになった原点は、阪神・淡路大震災が起こった時に神戸の街を歩き回ったことだと思う。僕も親族や友人を亡くした。その時多くの方々の辛い顔を見たことが今でも忘れられない。

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source : 週刊文春 2022年6月30日号