1981年にロナルド・レーガン大統領を狙撃した犯人ジョン・ヒンクリー(67歳)が完全に自由の身になった。

 ヒンクリーはブロードウェイ・ミュージカル『暗殺者たち』(1990年)の登場人物でもある。『暗殺者たち』は、『ウェストサイド物語』の作詞者スティーヴン・ソンドハイムが創作した数々のブロードウェイ・ミュージカルで最大の問題作だ。なにしろ、リンカーン大統領を殺したジョン・W・ブースやケネディ大統領を殺したリー・ハーヴェイ・オズワルドなど、実在の9人の大統領暗殺者と暗殺未遂者たちが歌って踊るのだから。

 開幕すると、9人の暗殺者が並んでステージに立ち、拳銃を持って歌う。「誰にだって幸福になる権利がある」。彼らは、誰でも成功できる、誰でもスターになれると謳うアメリカン・ドリームに狂わされた人々だ。

 チャールズ・J・ギトーは、熱心なキリスト教徒だったが事業に失敗し、貧困のなかで政治に救いを求めた。そして、1880年の大統領選挙でジェームズ・ガーフィールド候補を支持するパンフレットを書いた。ガーフィールドが当選すると、ギトーはそれが自分のおかげだと信じ、ガーフィールド政権から在フランス大使のポストを用意されると期待した。

 それは完全な妄想だった。ガーフィールドからまったく相手にされないギトーは大統領を恨み、拳銃で彼を至近距離から撃った。ガーフィールドは死に、現場で逮捕されたギトーには死刑判決が下る。しかし、ギトーは完全に狂っており、次期大統領に立候補して当選する夢を楽しく歌って踊りながら、絞首刑になる(歌って踊る以外は事実)。

 ギトーに比べるとジョン・ヒンクリーは恵まれていた。大富豪一族ヴァンダービルト家の血を受け継ぐ石油企業の経営者の御曹司だったのだ。だが、経営に興味が持てず、大学を中退して、ミュージシャンを目指してハリウッドに行った。

 まったく才能がなかったヒンクリーは親の金でぶらぶらしているうちに映画『タクシードライバー』(76年)を観て、当時13歳で娼婦を演じたジョディ・フォスターに恋をした。フォスターに大量のラブレターを送るだけでなく、彼女がイエール大学に入ると、近所に引っ越した。

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source : 週刊文春 2022年7月7日号