ウクライナ村に行ってきた。ウクライナじゃなくて、アメリカのシカゴの。

 ウクライナ移民は、他のヨーロッパからの移民と同じく、ニューヨークに上陸し、その後、産業革命で労働者を求めていたシカゴに移り住んだ。

 それから100年、ウクライナ系の人々は全米に拡がった。『ウエスト・サイド物語』のプエルトリコ移民のヒロイン、マリアを演じたナタリー・ウッドはウクライナ移民二世のナタリー・ザカレンコだった。ジャック・パランス、シルヴェスター・スタローン、レオナルド・ディカプリオ、ミラ・クニス、ヴェラ・ファーミガなどのハリウッド俳優もウクライナの血を引いている。現在、ウクライナ系アメリカ人は100万を超える。

 シカゴのウクライナ移民が集まって住んでいた住宅地には今もウクライナ系の教会や結婚式場、レストランや信用組合が残っている。1980年代、シカゴではそこを「ウクライナ・ヴィレッジ(村)」と名付けた。

 あちこちに青と黄色のウクライナ国旗が掲げられているこの街で、ひときわ目を引くのは聖ヴォロディーミル教会。青い空をバックに金ぴかのドームを見上げるとウクライナ国旗のようだ。ちなみに国旗は青空の下、地平線いっぱいに広がる小麦畑を意味している。

 聖ヴォロディーミルはロシア語でウラジーミル。10〜11世紀のルーシの大公である。ルーシはロシアの語源。でも、ルーシの中心はロシアではなくウクライナにあった。ロシアはルーシの一部にすぎなかった。ヴォロディーミルはキリスト教をルーシの国教としたので、彼は政治と宗教の両方でウクライナの国父であり、「聖公」と呼ばれる。

「ウクライナから何百年も遅れて国になったロシアはルーシの後継者として国の名前も歴史もウクライナから奪ったのです」

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source : 週刊文春 2022年7月14日号