(なかじましんすけ ホテルニューオータニ 総料理長。1958年、愛媛県宇和島市生まれ。77年株式会社ニュー・オータニ入社。93年「トゥールダルジャン 東京」部門シェフ、98年ホテルシェフパティシエ就任。2002年WPTC(スイーツの国際大会)日本代表。08年調理部長、22年常務取締役総料理長就任。)

 

 初めて企画を提案した時、「1個1000円以上もするケーキ!?」と社長(株式会社ニュー・オータニの大谷和彦社長)は目を丸くして驚いていましたが、「うちのお客さまならわかっていただけるから、やってみなさい」と背中を押してもらえました。欧米の技術を基に、日本で生まれ、独自の進化を遂げてきたショートケーキ。その究極の味をどうしても作ってみたかった。生地、クリーム、果物、すべてに限界までこだわったのが、スーパーシリーズの初代「いちごのスーパーショートケーキ」です。最高級のいちご「あまおう」の他にもマスクメロンやマンゴーを使ったり、「世界一のショートケーキを作る」というのが僕のミッションですが、まだまだ進化が続いています。

「おいしいホテル」として他の追随を許さない「ホテルニューオータニ」の看板スイーツが、2004年にペストリーブティック「パティスリーSATSUKI」で誕生したスーパーシリーズだ。ショートケーキ、モンブラン、プリン、ロールケーキなどバリエーションは増え、ホテル開業50周年を迎えた14年には「エクストラスーパーシリーズ」も誕生した。現在、発売中の「新エクストラスーパーメロンショートケーキ」は1日20個限定、なんと1個4320円!! その生みの親が中島眞介さんである。日本のホテル業界では空前絶後の、パティシエ出身の五代目総料理長だ。

 愛媛県宇和島市で生まれ育ちました。白壁の天守が美しい宇和島城のお膝元です。家族は両親、弟、僕の4人。親父は靴職人で、自宅の一角に工房がありました。たくさんの筆記用具、製靴用のミシンや色々な形の刃物、重たそうなハンマー、革の見本なんかが置いてあって、トントン、ガタガタと音を立てる手元を見ては、何を作ってるんだろうと思っていました。

イラストレーション 市川興一/いしいつとむ

 親父は口数が少ないタイプで、柔道をやっていたので体格も良く、どちらかといえば怖い存在でした。結婚前はジャズバンドでウッドベースを弾いていたそうで、いつもベレー帽をかぶるおしゃれな父が子供心に自慢でしたね。母の両親には付き合いを反対されたので、駆け落ち状態で結婚したらしいです。

思い浮かぶのは一面オレンジ色の山の景色。みかんを1日1キロは食べていた

 家は瓦屋根の二階屋が連なるわりと賑やかな通りにあって、このあたりはどこも敷地が長方形だったんですが、うちも通りに面した商店の脇を入った先に玄関がありました。その通路は薄暗くヒンヤリとして、小さな子供には洞窟みたいでちょっと怖かったっけ。玄関を上がると子供部屋と寝室として使った畳の部屋がふたつ。その横にちゃぶ台の置かれた居間と台所。そこで母が誕生日に甘いパンケーキを焼いてくれたり。親父は青魚が大好物でしたね。中庭を取り囲むようにくれ縁があって、突き当りがトイレ。ぐるりと頑丈な木の雨戸があったなぁ。

 4歳年下の弟とは一緒に遊んで、二人でイタズラもして。夜、布団に入るまで、絶えず何かやらかしていましたね。中庭には小さくて可憐な花をつけるエビネという植物がたくさん植えられていたんですが、その柵代わりの棒を全部引っこ抜いちゃったりして、怒った両親に子供部屋の机の脚に縛られた記憶もあります。

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source : 週刊文春 2022年7月14日号