美濃国(現在の岐阜県南部)の戦国大名、斎藤道三は、これから隣国の織田信長のもとに政略結婚で嫁ごうという愛娘、濃姫を居室に呼び寄せ、静かな声で、こう言った。
「これからおぬしが嫁ごうとしている信長は、聞けば、たいへんな大うつけじゃそうな。そこで、おぬしに、この短刀を授けてつかわす。もし信長がどうしようもない阿呆だと分かれば、この短刀でもって、遠慮はいらぬ! 刺し殺してまいれ」
「ふふふふ」、濃姫は不敵に笑う。
「? ……な、なにが可笑しい?」
「承知いたしました。でも、お父上。お濃はひとたび嫁ぎました以上、信長さまに一生添い遂げる所存。そうなれば、この短刀は信長さまではなく、いずれお父上を刺すことになるかも知れませんわ」
「なんと! さすがは“美濃のマムシ”の娘じゃ! これは1本とられたわい。わっはっはっは〜」
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source : 週刊文春 2022年8月4日号