『his』という映画がある(2020年、今泉力哉監督)。「ゲイカップルの静かに波立つ日常」みたいな話で、このカップルの1人が宮沢氷魚。そう、『ちむどんどん』で主人公の夫・和彦役で大活躍、ネットで「和彦は無能の極致!」「和彦の棒演技」だのさんざんな言われようの宮沢さんだ! 『his』では繊細な演技してたのに『ちむどんどん』の負のパワー……。

 それで『his』のゲイカップルのもう片方、藤原季節は今何やってるのか調べたらNHK「ドラマ10」枠の『プリズム』に出てた、主人公の彼氏役で。『his』の2人がNHKの朝と夜のヒロインを押さえていたとは!

 その『プリズム』、杉咲花と藤原季節の、さいきんよくあるのんびり恋愛ドラマか、とのんきに構えていたら、森山未來がそこに入ってきて、なんと季節と未來はむかし愛し合っていたが未來が身を引いていたという過去があるのだ! 季節の父は銀行の重役で、息子がゲイなのは許せない差別バリバリ保守男。そこで杉咲ちゃんと季節は偽装結婚をしようとして(でも杉咲ちゃんは季節ラブである)、両家顔合わせの席に杉咲ちゃんのお父さんの吉田栄作も出てくるが、お母さんの若村麻由美と離婚して今は男性パートナーと暮らしているのだ! この「あたりいちめんゲイが続々と」というのはBL小説によくあるパターンだが、それだけではない。父が「女と結婚しないと息子の会社(オシャレガーデンプランニング会社)の融資打ち切る」と言いだし、造園のための植木を買うことができない、するとロングヘアでちょんまげ自由人アーティストっぽい未來が「ひとつだけツテがある、電話もつながらないところだ」とか言って、山里で英国人のやってるエコな花農家に連れていくとか、もう「BL小説設定の豪華幕の内弁当状態」。

杉咲花 ©文藝春秋

 しかしこのドラマの主人公は杉咲ちゃんなのだ。BL小説では、カップルの片割れにからんでくる女というのはほぼジャマ役かイヤなヤツ役と相場は決まっているが、杉咲ちゃんはどうするんだ、と手に汗握っていたら、季節と未來がほんとに惹かれ合っているのに「世間に負けて」(「昭和枯れすゝき」か)別れようとしていることがヒシヒシとわかってしまい、山里のエコ農園に3人でいる時に爆発するのだ!

 見た目がすげえ自由人ぽい未來が、いちばん世間体気にしてるんだ、季節のためだとか言って。ここで怒鳴りまくる杉咲ちゃんがいい。「無傷でいようなんて甘いんですよ!」と絶叫。

 ゲイカップルの横にいる女の叫びをNHKで聞いてくらくらしました。でも杉咲ちゃんの激怒により、未來と季節はまたくっつくので……結局BLの王道か。杉咲ちゃんの未来に幸あれ。

『プリズム』
NHK 放送終了
https://www.nhk.jp/p/ts/VW95PNPX88/

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source : 週刊文春 2022年9月22日号