八月も半ば近くなると、複数のテレビ局が“戦争ドラマ”を放映する。そんな風潮も近年は鳴りを潜めた気がするけど、実際のところはどうなんだろう。
NHKは今年、戦時下のレヴュー劇場にスポットを当てた『アイドル』をドラマにした。ダンスとジャズと軽演劇で絶大な人気を博したムーラン・ルージュ新宿座が舞台の、一時間超の長尺ドラマだ。
ムーランの頂点に君臨したのは、岩手から新宿に流れ着いた明日待子(あしたまつこ)だ。十五歳で上京したときは、ただの垢抜けない、スターを夢みる少女だった待子が、なぜ若者を熱狂させたか。
主演は古川琴音。劇場に長いこと居ついた老人が、まだ下積みの待子を「不細工なくせに、笑った途端に可愛くなる。ありゃ、大穴だぜ」と支配人に予言する。数えきれないスター志願者を見てきた年寄りの勘に狂いはなかった。
頑張りと笑顔だけが取り得の少女が、ワン・チャンスをものにして劇的に変貌していく姿を演じる古川の演技に鳥肌が立った。
芝居が巧いといったレベルじゃないんだ。純情と意志の勁(つよ)さを併せもつ待子の内面の変化と成長、そして揺れを、目の動きで表現してしまう。肌だけじゃない、私の脳までがザワザワして、快感と不穏に慄く。
戦時下と書いた。待子がムーランに来た昭和十一年には、中国との戦争は泥沼化していた。満州事変が始まった昭和六年から、日本はすでに戦時下だった。
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source : 週刊文春 2022年9月15日号