昭和モダン建築の片鱗が残る木造アパート。出入り自由の部屋にいつも仲間が集まっていた。|近藤良平

新・家の履歴書 第799回

山田 由佳
ライフ ライフスタイル

(こんどうりょうへい 振付家・ダンサー。1968(昭和43)年、東京都生まれ。ペルー、チリ、アルゼンチン育ち。ダンスカンパニー「コンドルズ」の主宰として、全作品の構成・映像・振付を手掛ける。テレビ、映画、PV、CMなどの振付多数。2022年4月、彩の国さいたま芸術劇場芸術監督に就任。)

 

 大学卒業後に住み始めたのが、新宿区西早稲田にあった「朋来居(ほうらいきょ)」という名の古いアパートです。(僕の記憶では)八角形のドーナツ状をした変わった形の建物で、真ん中は雑草だらけの庭。木造2階建てでトイレも水道も共同。大家さんが「東京大空襲でも焼けなかった」と自慢していたから、建てられたのは昭和初期じゃないかな。ホラー映画の『リング』で、貞子がブラウン管から出てくる例のシーンの撮影に使われた場所でもあって……。つまりはそういう雰囲気も漂っている。でも僕にとっては、その名の通り「朋友来たる宿」でね。気付けばここに集まった仲間と舞台に立っていた。朋来居は「コンドルズ」発祥の地なんです。

 コンドルズはコンテンポラリーダンスをベースに生演奏、人形劇、映像、コントを織り交ぜたパフォーマンスを展開する学ラン姿の男性ダンサー集団。近藤良平さんはその主宰者で、作品の構成・映像・振付も担っている。また個人でもテレビドラマ、映画、CMの振付等で活躍中だ。
 1968年、東京生まれ。生後8カ月で商社に勤める父の赴任先であるチリへ渡り、専業主婦の母、3歳上の姉と共に暮らした。
 その後、ペルーのリマに移動。6歳で帰国し千葉県市川市の社宅マンションに住み、9歳になると、今度はアルゼンチンのブエノスアイレスへ。サッカーにフォルクローレ(ラテンアメリカ諸国の民族音楽)と、アルゼンチンを全身で吸収。当時から運動神経は抜群で、日本人学校の同級生曰く「走り幅跳びではスターンと飛んで、そのまま飛んでいってしまいそう」だった。

 一番古い家の記憶は、チリの社宅の庭で大きなリクガメの背中に乗って遊んだこと。その亀は僕たち家族が住む前からいたんじゃないかな。

 アルゼンチンで住んでいた社宅は、4階建てのアパートメントの3階。広いリビングに食事室、両親の寝室、姉と僕の部屋があり、親父の書斎からはいつもドイツの楽曲やオペラ音楽とパイプの香りが流れていました。今思えばずいぶんかっこいい環境だよね。

ブエノスアイレスでの子ども時代。やがてダンスの面白さに目覚める

 この頃のブエノスアイレスの治安は子どもだけで外で遊んでいても大丈夫ではあったけど、上着なんかをその辺に置いておくと盗られちゃう。「鞄はしっかり抱えて持ちなさい」と親から言われていたこともあって、外ではいつもどこか緊張感があって。その点、家では安心して自分を解放できた。家の中は部屋の周りに廊下があって、一周できるようになっていたんです。そこをよくスケートボードでぐるぐると回っていました。途中、キッチンに立ち寄って水を飲んだりしながらね。家も土足だから、室内でスケボーをしてもそんなに違和感がない(笑)。

 またチャランゴという弦楽器にハマりまくりました。ボリビア人女性のノラ先生が、家に来て一から教えてくれて。親父の仕事柄、ホームパーティーもしょっちゅう。そんなとき「弾いてごらん」と親に言われ、お客さんの前で、僕はチャランゴを、姉はクラシックギターを演奏しました。面倒くさいなと思いつつ、満更でもない感じで。

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source : 週刊文春 2022年9月29日号

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