(さとうかつふみ 海洋生物学者。1967年、宮城県生まれ。京都大学大学院を経て、国立極地研究所の助手に。現在、東京大学大気海洋研究所教授。岩手県の大槌沿岸センターを中心にバイオロギングによる動物の生態調査を行う。『ペンギンもクジラも秒速2メートルで泳ぐ』をはじめ著書多数。)

 

「ウミガメの体温は周辺の水温に応じて下がる。〇か×か」。この問いに、たいていの人がこう答えるでしょう。「ウミガメは爬虫類。爬虫類は変温動物なので体温は下がる。だから〇」と。しかし、正確には少し違うんですよ。そう教えてくれたのは、ウミガメに取り付けた小型装置のデータです。常識を覆す結果が次々と出てくる。それが私が取り組んでいるバイオロギングの醍醐味なんです。

 バイオロギングとは、野生動物に小型記録装置を取り付け、体温や深度、周辺の環境情報を記録する研究手法のこと。海洋生物学者の佐藤克文さんはこの手法を用いて、それまで調査が難しかった水生動物の行動や生態を解き明かしてきた。

 1967年、東北大学理学部で化学の研究をしていた父と、養護教諭の母のもと宮城県多賀城市で生まれた佐藤さん。しかし、ここでの記憶は全然ないという。

 2歳の頃、父が東芝に転職し、神奈川県川崎市の社宅に引っ越しました。台所と二間があるだけの狭い部屋です。小学3年生で釣りに目覚め、多摩川の支流で小魚を釣ったりしていたんですが、当時の多摩川はまだ汚かったですね。

 大気汚染の影響か、次第に私は喘息の症状に悩まされてしまって。3歳下に妹がいて4人家族には手狭だったこともあり、私が4年生の頃、厚木市内の新築の戸建てに引っ越しました。1階がLDK、父の書斎と和室、2階が私と妹の個室、両親の寝室でした。

 近所を流れる中津川は清流で、絶好の釣り場。ウグイやオイカワなどを釣って遊んでいました。そのうち、釣った魚を飼う池が欲しくて庭に穴を掘り始めたんですよ。「庭がえらいことになる」と慌てた父が庭師さんにお願いして、立派な池を作ってくれました。

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source : 週刊文春 2022年10月27日号