11月6日(日)放送の『アッコにおまかせ!』(TBS系列)で約4年7カ月ぶりに芸能界に復帰したタレントの春香クリスティーン(30)。「日英独仏の言葉を操るマルチリンガル」「選挙と政治が大好き」「片付けが苦手で汚部屋に住んでいる」などユニークなキャラクターでブレイクしたが、2018年3月末に芸能活動を休止。同年12月には結婚が報じられ、表舞台から姿を消していた。
なぜ芸能界に復帰したのか。休業していた4年7カ月の間、どう過ごしていたのか。「週刊文春」の取材に、春香クリスティーンが語った。
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休業を決断した理由「明確に“溝”みたいなものを感じた」
——芸能界に復帰しようと思った理由を教えてもらえますか。
春香クリスティーン(以下、クリス) 2018年に休業してから、芸能界とは別の世界を見てきました。その時に改めて自分はエンターテイメントの世界が好きなんだ、という強い想いを抱いていることを認識したのです。今後もエンターテイメントの世界に携わる仕事がしたい。でも自分にできることは限られている。なので、まずは自分がこれまでやってきた仕事であるタレント業にもう一度チャレンジすることから始めようと思い、前のマネージャーさんとも相談した上で、決めました。
——全盛期はレギュラー番組が10本もありました。そんな最中の2018年に突然芸能活動を休業しようと思ったのはなぜなのか。当時の心境を教えてください。
クリス お仕事を沢山いただいていたことはありがたいと思っていました。ただ、忙しすぎて、1つ1つのお仕事を大事にできていないような気がしていたんです。それが本当に申し訳なかった。アウトプットが多くなりすぎてインプットができていないことも悩みの1つでした。
私は芸能活動と並行しながら上智大学に通っていたんですが、級友の存在にも影響を受けました。結局、私は大学を中退して芸能活動に集中しました。でも、友人たちは皆、大学を卒業して、企業に入り、社会人になっていった。知らない世界を開拓して遠くに行ってしまった気がしたんです。私はもちろん一生懸命仕事をしていたけれど、代わり映えのしない「同じ日々を過ごしている」気がした。私だけが子供のまま取り残されてしまった。明確に“溝”みたいなものを感じたんですよね。
芸能界は特殊な世界です。そこにいる私には社会常識もない。「このままじゃまずい」と思って、一度、この世界を飛び出してみよう、と思ったんです。
すぐにカナダへ留学「単なる語学留学にはしたくなかった」
――休業後は、まず何をしたんでしょう。
クリス 「(芸能界とは)違う世界を見たい」という想いが強くあったので、海外の留学先を探しました。でも単なる語学留学にはしたくなかった。語学以外の何かをしっかりと勉強したかった。すると、カナダのブリティッシュコロンビア州のビクトリアという都市にある大学で経営管理を学べるコースを見つけました。運命的なものを感じて惹かれましたね。自分に足りていないものが、そこにあるような気がして。カナダという国にもシンパシーを感じていました。すぐに決めて、2018年5月から3カ月間、留学しました。
――「経営管理」とは具体的に何の勉強をしましたか。
クリス ビジネスの初歩的なことです。アカウンティング(会計)やファイナンス(財務)、ヒューマンリソース(人事)など、会社経営に必要なことを1週間ごとにみっちり学ぶんです。それが、すごく面白くて! 勉強に没頭しました。「会社」や「経営」に関するアレコレって、それまでの私が一番知らなくて、一番知りたかったこと。最も欠けている部分がスポンジのようになっている感覚。毎日「吸収しているな」という実感がありました。
留学先ではいろんな国籍の友達ができたんですが、実は、今だから言えるんですが、当時はみんなに隠していたことが一つあるんです。
――なんでしょう?
クリス 多くの留学生はウィークリーマンションを借りたり、ホームステイをしていたんですけど、私は3カ月間、ホテルに滞在していました。なぜなら、私って生活力がないじゃないですか。放っておくと、部屋をすぐにゴミ屋敷にしちゃう(笑)。ホームステイ先の家族にも迷惑がかかるし、勉強にも集中したかった。お金はかかったけど、片付けを全部やってくれるホテルを選んだんです。まあみんなには「1人で暮らしてる」と説明していたので、ウソではないんですけどね(笑)。
毎朝起きてバスの中で勉強しながら大学に行き、授業を受ける。食事は昼も夜も学食で食べて、夜9時くらいまで図書館で勉強。バスでホテルに帰って、好きなドラマを1話だけ見て寝る。多分この先の人生で二度とできない贅沢な生活を送った3カ月間でした。
沖縄と東京の2拠点「井上咲楽ちゃんと共同生活していました」
――カナダから帰国した後は?
クリス 沖縄に移住しました。2018年8月からです。後に夫になる男性が通信社の記者をやっているんですが、当時、那覇支局に勤務していました。結婚するつもりだったので、一緒に暮らすことにしたんです。
彼とは2016年から交際していたんですが、私がまだ芸能界の仕事をしている頃は東京から沖縄に飛行機で通っていました。頻繁に沖縄に行っていたので、家賃がもったいないと思って、最終的には東京のマンションも解約。事務所の後輩の井上咲楽ちゃんと大田区にあるワンルームの部屋で共同生活をしていました。彼女も当時は栃木の実家から通っていたので、お互いに東京で仕事がある時の仮住まいです。ベッドが1つしかないから、咲楽ちゃんと2人で泊まる時は、私は薄い布団で床に寝ていました。
2018年に一般男性と結婚「12月7日に入籍しました」
――旦那さんとはどこで出会ったんですか?
クリス 私は「政治が好き」って公言してきました。実際、政治に関連するお仕事もやっていたんですが、もっと勉強がしたかった。そこで知人に政治部の記者の方を紹介してもらうことになり、彼と出会ったんです。那覇支局に来る前、彼は東京の政治部に所属していました。
——そんな彼と暮らすために沖縄に移住。現地では何をしていたんですか?
クリス 「やちむん」という沖縄伝統の陶芸の工房でアルバイトをしていました。実は、カナダに留学する直前、2018年の4月にこの工房の求人に申し込んでいたんですよ。「すみません、来月からカナダに留学します」って言って。わがままですよね(笑)。「日本に戻ってきたらまた働いてね」と工房の方が言ってくださったので、そのお言葉に甘えて、正式に働かせていただくことにしたんです。私が担当していたのは、絵付けや釉掛けなどの工程です。「釉掛け」というのは、器の表面をガラス質の「釉薬」でコーティングする作業です。週に5日、朝から夕方まで。とっても楽しい仕事でしたよ。
沖縄にいた時に入籍もしました。プロポーズ自体は、交際して1年くらい経った頃にすでにしてもらっていたんですけど。婚姻届を出したのは那覇市役所の夜間窓口。2018年12月7日のことでした。
——12月7日という日付には何か意味が?
クリス 恥ずかしいんですけど……夫と付き合ったのが2016年の7月12日だったんですよね。それをひっくり返して、12月7日(笑)。この年の7月12日は、私はカナダにいたから入籍できなかった。だから、この先も結婚記念日を忘れないようにと、この日付にしました。
結局、沖縄で暮らしたのは、8カ月あまり。夫が再び政治部に異動になったので、2019年4月に東京に戻ることになりました。
派遣社員としてコールセンターでお仕事
——東京に戻った後はどうしたのでしょうか。
クリス 求職活動をしました。具体的には、インターネットの求人サイトに登録して、採用面接にも行ったことがあります。探していたのは「語学」を使う仕事。会社に貢献できることは何だろう? と考えた時、「自分の武器はやっぱり語学力かな」と思ったので。そして、ある派遣会社に登録することになって、そこから企業に派遣されることになりました。
——語学を使う仕事が見つかったと。
クリス はい。多言語のコールセンターに勤務することになりました。クライアントである企業にかかってきた英語などの電話に対応するという仕事です。基本的な問い合わせにはマニュアルで対応するんですが、面白かったのは「電話通訳」ですね。例えば、日本人とアメリカ人が電話しているところに私が入り、それぞれが喋っていることを伝える、という仕事です。電話で3人が喋る時もあるし、私以外の2人は実際に対面して私だけ電話で参加するということもありました。刺激的な仕事でした。コールセンターでの勤務はコロナの直後、2020年3月まで約1年間、続けました。
加えて、私は派遣社員として仕事ができたことも、自分にとってはいい経験になったな、と思っているんです。
——いい経験とは?
クリス 以前、芸能界にいた時の2015年、安倍政権下の「労働者派遣法改正」の審議を見に行ったことがあったんですね。正直に言うと、当時はこの改正がどういう意味を持っているのか、体感的に理解できていませんでした。でも、実際に自分自身が派遣労働者になってみると、「あの時の改正って、ここが変わったんだ」ということが身をもってわかる。派遣労働者になって、新たな視点を1つ持つことができたと思います。
コールセンターで勤務する傍ら、通訳学校に通い始めた
——結婚後は、派遣会社に登録して、多言語のコールセンターで勤務していたと。クリスさんは元々英語もドイツ語もネイティブレベルで話せます。仕事は難なくこなせたんじゃないでしょうか。
春香クリスティーン(以下、クリス) 全然そうでもなくて。「喋れること」と「通訳すること」って全く異なる能力なんですよね。私は確かに外国語は喋れたけど、「通訳」の能力はなかった。だから、コールセンターで勤務する傍ら、通訳学校に通い始めたんです。
——すごい行動力ですね(笑)。
クリス ドイツ語の通訳コースを探していたんですが、いいものがなかった。やはり通訳のメインは「日・英」なんですよ。私は英語は母語ではないんですけど、まずは「通訳」の考え方自体を学べば、ドイツ語にも応用できるかなと思って、そこの門を叩きました。
——通訳学校ではどのようなことを勉強したのでしょうか。
クリス 私が通っていたのは「逐次」のコース。話者が1~2分のセンテンスを喋った後、まとめて翻訳して伝えるスタイルの通訳です。英語ができるのはある程度は当たり前で、大切なのはそれ以外の部分。例えば、安保関連の会話だったり、円安とか経済の会話、それ以外でも、ジャンルと分野ごとに専門用語ってありますよね。それらの前提知識がないと通訳はできません。学校では、そういう知識の「予習法」を身につけます。メモの取り方やリテンション(記憶の保持)なども勉強しましたね。この勉強ものめり込んでしまい、学校には1年以上、通っていました。
——かなり上達されたのでは。
クリス でも、進級がなかなかできなくて……。私が通っていた学校では、「逐次通訳」で1から4までレベルごとにクラスがあって、その後に「同時通訳」になるんですけど、2から3に行くハードルが結構高かった。だから私は同時通訳は学んでいません。でも憧れはあるので、今でも通訳学校の友達とオンラインで自主勉強会みたいなものを開いて、独自で同時通訳の勉強みたいなものはやっているんです。
この通訳学校でできた友人に誘われて、転職もしました。2020年4月にコールセンターを辞めて、別の会社に移りました。
OLとして働きながら妊娠、そして出産
——次の会社ではどんなお仕事をされたのでしょうか。
クリス 英文事務ですね。通訳したり、翻訳したり。会社で発生する英語に関する事務作業全般です。それまでオフィスで働いたことがなかったので、OLは憧れでした(笑)。2021年11月に子どもが生まれたので、産休を挟んで、今年12月までその会社に在籍する予定です。
——お子さんはつい先日、1歳になられたのですね。出産して何か変わりましたか?
クリス もう生活が全て変わりましたね。「自分軸」とは違う「別の時間軸」が1つできた感じです。それまでの私は、自分が眠かったら寝る!というタイプの人間でしたが、赤ちゃんは3時間に1回ミルクをあげないといけないから、強制的に起きないといけない。「どれだけ眠かろうが疲れていようが、この命を守るために自分がなんとかしないと」という気持ちが芽生えたのは初めてです。
夫には感謝しています。通信社の記者だから仕事が忙しいはずなのに、本当に色々とやってくれる。私が身の回りのことを0.5人分しかできていないので、「補わざるを得ない状況」を作ってしまっているんでしょうけれど(笑)、夫であり戦友みたいな存在です。
結婚して「家が回るようになりました(笑)」
——クリスさんは独身の時は「汚部屋」に住んでいたことが注目されていましたよね。結婚して、出産もされて、現在の部屋の状況はいかがでしょう……?
クリス ふふふ。まず、昔の私の家には家具がほぼなかったんですよね(笑)。ベッドと、洋服をかける竿くらい。そこにモノが溜まっていってゴミ屋敷になっていった。掃除したら現金100万円が出てきたこともありましたね。多分、お金が必要で下ろしてきたんだと思いますが、ゴミの中に置いてわからなくなったんでしょう。そういえば、同じ事務所の後輩の井上咲楽ちゃんもうちに何度か泊まりに来たことがありました。お風呂とか真っ黒でお化け屋敷みたいでしたけど、よく文句言わずに泊まってくれたなあ……(笑)。
今の家には、夫が使っていた家具があるので、ちゃんとした部屋にはなっています(笑)。それ以上に感じているのは、「家が回る」ことですね。これが一番大きいかも。
——「家が回る」ですか。
クリス はい。1人で暮らしていた時はまず家での生活の実態がほぼありませんでした。家が回ってないんです。でも、夫がいて、子どもがいると、そこに人間の生活がある。家が回っている。まあ、夫が回してくれているわけですが……。私はその流れに「乗っかって」いればいいので、そこまで生活が崩壊することはなくなりました。
家が回っているから、「あ、洗濯をやらないと」とか「あ、洗い物を少しでも減らさないと」と思うようになる。私がサボっていると、流れが止まってしまうので。まあ、でも夫はきっと私には見えていない色々な家事をやってくれているんだと思いますが……その自覚はちゃんとあります(笑)。
「クリスは性格上、何かを仕切ることが一番向いてないよ」
——芸能界に復帰することに関しては旦那さんは何と言っていますか?
クリス 「どんどんやりなよ」と後押ししてくれています。やりたいことをやればいい、と。通訳の学校に通っていた時、「実は私がやりたいことって裏方なんじゃないか」と思ったことがあるんです。エンターテイメントの裏方。通訳もそうですけど、例えばコーディネーターとかもそうです。そういう道を模索しようかと真剣に考えたこともあります。
でも、昔からずっとお世話になってきたマネージャーさんに「クリスは性格上、何かを仕切ることが一番向いてないよ」と言われてしまって(笑)。だったら今の私に何ができるのか? そう考えた時に、「自らが前に出る芸能のお仕事をもう一度やってみようかな」と思ったんです。
——これから先、やってみたい仕事はありますか?
クリス さまざまな物事の取材をしてみたいです。以前、芸能界にいたときはニュース番組やワイドショーでコメンテーターをやっていたんですが、そういう感じではなく、自分の目で見てきたものをレポートしたい。元々、どちらかというと、自分の意見を喋るよりも、人から話を聞いたりする方が好きなんです。そういうことが好きだったから、記者の夫が好きになったのかもしれないし。
休業期間中、色々な世界を見てきました。濃密な4年7カ月だった。知らない世界を知ることの面白さを本当に満喫したと思います。そして、結婚もして、母親にもなった。そんな私の視点で見た世界をエンターテイメントとして多くの人に届ける。そういう仕事に携わることができたら嬉しいです。
写真=山元茂樹/文藝春秋
source : 週刊文春