人生の3分の2はいやらしいことを考えてきた。
夏が過ぎても蝉が鳴き止まない。
それによって秋の虫の音は掻き消され、とうとう冬を迎えてしまった。
今も“ミ――ン”と、一定数の蝉を耳の中で飼ってる状態なのである。
人に言わすとそれは耳鳴りってやつで、一度医者に相談した方がいいとアドバイスを貰った。
聴力検査を受けた後、「どんな音が鳴っていますか?」と、聞かれたもので「蝉ですね」と答えると、さらに「どんな蝉ですかね」ときた。
そこまで考えたことはなかったので「アブラゼミじゃなく、もう少し静かなやつですね」と、適当に返した。
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source : 週刊文春 2022年11月24日号