『最初はパー』、また秋元康ドラマである。

 秋元康ドラマといっても山ほどあるが「秋元康がどこまで入れ込んでるか」を見極める必要がある。「企画・原作」もの(『吉祥寺ルーザーズ』はそっち)と「企画・原作・脚本」があり「脚本」入りが「秋元康の本気」を感じるサインだ。

秋元康 ©文藝春秋

『最初はパー(以下パー)』はやる気である。「企画・原作・脚本」で、有名政治家のダメ息子役のジェシー(SixTONES)と元ヤクザ役の市川猿之助がお笑いコンビを組むという、もうこの設定だけで「マジ」だ。前は「秋元康のドラマかよ」と半笑いだったりしたが今はちがう。ほんとうにドラマ作家になりたいんだ秋元さんは。きっと宮藤官九郎になりたいんだよ。三谷幸喜や渡辺あやじゃなくて、クドカン。サブカルチャーに軸足ガッチリ置きながら万人を笑わせて泣かす人情劇をつくり、なのに大御所にはならず飄々としてるような。だって『パー』見てると、その設定や演出のとっぴさやキャスティングが『俺の家の話』を思い出すもん。ああいうのをつくりたかったんだと思う。アイドルと大御所が出てきて思いもかけぬお話を展開し、笑いながら最後にじわーっと胸にくるやつ。

『パー』も、市川猿之助の元ヤクザがステージ4のがんに冒されていることが判明し、ジェシーは漫才を諦めて政治家の後を継ぐという条件で猿之助の治療費を親に出させる。それを知って「夢を諦めるのか!」と泣いて暴れる猿之助。泣ける場面のはずなのにどうにも泣けない。なんなんだこの作り話感。

 理由はたぶん、政治家のおちこぼれ息子と元ヤクザの二人が、どうして「そこまでお笑いやりたいのか」「お互いをそこまで思い合うようになったか」がさっぱり描かれてないからだ。「オレはこいつとお笑いやっていくんだ!」って力んで言ってるだけ。猿之助は熱演してるが、熱演するしかないだろうなこれは……。

 他の出演者たち、とくにお笑い養成所の仲間たちにもいろいろ抱えるものがあって「ぐっとこさせる」ネタはあちこち仕込まれてるが、そっちもなんか湿気た花火みたいに不発ぎみ。唯一、養成所の講師やってる小籔千豊だけ、ミョーな存在感があって小籔が出てくるとなんかホッとする。もちろん小籔にも「売れなかったお笑い芸人」という過去があってなぜか昔の相方からまた漫才やろうと誘われたりしている。仕掛けは充分、いや十二分な脚本だと思いますが、仕掛けしかないとも言える。それってすごく秋元康っぽい。秋元康ドラマだから当たり前だが。でもそれでいいのか。この『パー』、秋元康以外にも脚本家が入ってるらしいが、それ言い訳にならないしなあ。思いは伝わるから頑張ってほしいのだが。

『最初はパー』
テレビ朝日系 金 23:15~
https://www.tv-asahi.co.jp/paa/

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source : 週刊文春 2022年12月15日号