それにしても見事な飛び出しだった。横並び一斉スタートの箱根駅伝1区で、見慣れない黄色いユニフォーム姿の選手が独走。牽制し合う後続集団との差をぐんぐん広げ、中継映像の画面を独占した。
「逃げ馬に喩えられていたことは後で知りました(笑)。走っている最中も『行け、行けー!』って。自分の足音が聞こえなくなるくらいの声援をいただきましたね」
爽やかな表情で振り返るのは、育英大陸上競技部の主将を務める新田颯(はやて)(4年)だ。育英大は予選会で敗退したが、落選校の成績上位者で編成される「関東学生連合」の主力として本選出場を果たした。
いわば寄せ集めのチームだが、新田はこんな思いを秘めてレースに臨んだという。
「うちは寮やグラウンドなど設備面で充実しているとは言いがたい。でも頭を使って工夫すればいくらでも記録は伸びるってことを証明したくて。本音を言えば、ここで目立ってやる、育英大の育成力を宣伝してやろうと思ってました」
高校から本格的に陸上に打ち込んだが、強豪校から声がかかるレベルではなかった。創部まもないチームで共に強くなりたいと育英大に進学。入部当時は部員が14名のみで、今も朝夕の食事は寮から約500メートル離れた系列の前橋育英高の食堂まで足を運ぶ。恵まれた環境ではないが、継続は力なりの信念で記録を伸ばした。大学に入ってから1万メートルの自己記録を4分も縮めたという。
「良い練習ができていたので自信もあって、1区は自ら志願しました。ペースが遅かったら前に出ようと考えていて、ある意味プラン通り。誰もついてこなかったので、もう自分を信じて行きましたね」
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source : 週刊文春 2023年1月19日号